ピアノ四重奏曲第3番 (メンデルスゾーン)

メンデルスゾーン：ピアノ四重奏曲第3番 ロ短調 作品3

フェリックス・メンデルスゾーンが手がけたピアノ四重奏曲第3番 ロ短調 作品3は、彼の青年期における重要な成果であり、その後の音楽家人生の行方を決定づける節目となった作品です。

概要

この作品は1824年の終わり頃から作曲が始まり、翌年、メンデルスゾーンが16歳の誕生日を迎えるほんの数週間前には完成したとされています。彼はこの楽曲を、数年前に面識を得ていた文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテに献呈しました。先行するピアノ四重奏曲第1番、第2番と比較すると、楽譜のページ数が倍近くに及ぶことから、この作品に対する若き作曲家自身の確固たる自信が見て取れます。そして実際、この第3番はメンデルスゾーンにとって、音楽の道へ本格的に進む大きなきっかけとなりました。

1825年3月、父アブラハムは、息子のフェリックスが音楽の専門家たちからその才能を認められるならば、音楽家としての道を歩むことを許すという条件を提示します。この条件を満たすべく、フェリックスは完成したばかりの本作を携え、パリへと旅立ちました。彼はパリ音楽院の楽長であったルイジ・ケルビーニと、オペラ座のコンサートマスターを務めていたピエール・バイヨに作品を披露します。メンデルスゾーン自身の記録によれば、当初二人はさほど関心を示していなかったようですが、第1楽章の冒頭からすぐに演奏に引き込まれ、驚くべき速度で全曲を一気に弾き終えたといいます。演奏が終わると、バイヨは若い作曲家のもとへ歩み寄り、言葉を何も発することなく、ただ彼を深く抱擁したのでした。この出来事が、メンデルスゾーンが音楽家として生きていくことへの決定的な後押しとなったのです。

楽曲構成

全4楽章で構成されており、演奏時間は約33分です。作品全体を通して、若々しい情熱とヴィルトゥオーソ的なピアノの書法が印象的です。

第1楽章

Allegro molto, 3/4拍子, ロ短調

ピアノがナポリの六度を取り入れた特徴的な主題を提示して開始します。続いて入ってくる弦楽器は、通常繰り返される主題をそのまま奏でるのではなく、半音階的な動きを見せます。こうした伝統的な形式からの逸脱は、既にこの時期から見られるメンデルスゾーンの非凡な才能を示すかのようです（譜例1に相当）。ピアノのアルペッジョを伴って弦楽器が最初の主題を奏でた後、経過を経て、ニ長調で柔らかな第2主題が現れます（譜例2に相当）。その間も、最初の主題の断片が随所に織り交ぜられます。華やかな小結尾の後、落ち着いた雰囲気で展開部に入ります。提示部の反復指定はありません。展開部はテンポを速め（Piu allegro）、主に最初の主題をもとに展開されていきます。元のテンポに戻って再現部となり、最初の主題に続いて、ロ長調で第2主題が再現されます。最後にテンポを再び速める（Piu allegro）コーダが置かれ、楽章は勢いそのままに力強く閉じられます。

第2楽章

Andante, 4/4拍子, ホ長調

ピアノが奏でる美しい主題で静かに幕を開けます（譜例3に相当）。この主題に続いて、ピアノが先行する形で新しい旋律が登場します。ヴィオラによって示されるこの旋律は特に印象的です（譜例4に相当）。ヴァイオリンの装飾的なカデンツァ風のパッセージを挟んで、最初の主題がロ長調で再現されます。間を置かずに、さらに別の新しい旋律が導入されます（譜例5に相当）。チェロが最初の主題をホ長調で再び奏で、その後に譜例5の旋律が続きます。楽章の終わり近くで、譜例4の旋律が回想され、全体は静けさの中で締めくくられます。

第3楽章

Allegro molto, 3/8拍子, 嬰ヘ短調

スケルツォ楽章であり、メンデルスゾーンらしい繊細で軽やかな世界観、『夏の夜の夢』を思わせるような雰囲気が漂います。ピアノによる急速で軽快な主題の提示で始まります（譜例6に相当）。スケルツォ部の前半は反復記号により繰り返され、後半は繰り返されずにロ長調の中間部へと移行します。中間部でもピアノの急速な動きは保たれたまま、弦楽器が順次進行による主題を奏でます（譜例7に相当）。中間部も前半のみが繰り返され、その後に最初のスケルツォ主題の再現に戻ります。その後、短調で中間部の旋律が回想されつつも、勢いを失うことなく最後まで駆け抜けます。

第4楽章

Allegro vivace, 2/2拍子, ロ短調

終楽章もまた、華やかなピアノの技巧が随所に光る楽章です。このヴィルトゥオーソ的な書法は、作曲当時の作品が家庭での演奏も念頭に置かれていたであろう背景を示唆しているかもしれません。冒頭、弦楽器のトレモロに乗って、序奏的な主題が奏でられます（譜例8に相当）。続いて提示される主要な主題は、まずピアノの独奏で示され、その後弦楽器に受け渡されます（譜例9に相当）。力強いエピソードを経て、再びピアノから奏される主要主題には、弦楽器が対旋律を合わせていきます（譜例10に相当）。ピアノによる華麗なパッセージワークの合間に、明るい性格のエピソードが挿入されます（譜例11に相当）。序奏主題を用いた推移を経て、主要主題が展開されます。序奏主題も加わって楽章全体の盛り上がりに貢献します。序奏主題が現れると再現部が始まり、対旋律を伴う主要主題も再現されます。ピアノを中心とした技巧的なパッセージが続き、その終わりには弦楽器による主要主題の回想を交えつつ、力強く全曲の幕が閉じられます。

もう一度検索