ピアノ小協奏曲 (ウェーバー)

カール・マリア・フォン・ウェーバーの手による「ピアノと管弦楽のための小協奏曲（コンツェルトシュテュック）」ヘ短調 作品79（J.282）は、彼のピアノとオーケストラのための作品群の中で特に広く知られ、頻繁に演奏される傑作の一つです。全3曲あるピアノ協奏曲と比較しても、その知名度と演奏頻度において抜きん出ています。

この曲の作曲は1815年に始まり、ウェーバーの代表作であるオペラ『魔弾の射手』の初演が行われた1821年6月18日の朝に完成を見るという、劇的なエピソードを持っています。完成からわずか1週間後の6月25日には、ベルリンで開催されたウェーバー自身の告別演奏会で初演されました。

当初は「ピアノ協奏曲第3番」として構想が進められていましたが、ウェーバーは最終的に、楽章間に切れ目のない単一の連続した楽曲として構成し、さらに明確な「筋書き」を与えることを選択しました。この形式上の特徴から、彼はこれを伝統的な「協奏曲（コンツェルト）」ではなく、ドイツ語で「小協奏曲」や「協奏的な小品」を意味する「コンツェルトシュテュック（Konzertstück）」と名付けました。作品は独奏ピアノに高度で華麗な演奏技巧を要求します。

ウェーバーは、『魔弾の射手』初演の朝、完成したばかりのこの曲を妻カロリーネと弟子ベネディクトの前で演奏し、作品の背後にある物語を語ったと伝えられています。この物語こそが、各部分の性格を決定づける重要な要素となっています。

物語は四つの部分に分かれています。

1. ラルゲット・アッフェトゥオーソ（ヘ短調）
ある婦人が、遠い地を想いながらバルコニーに一人たたずんでいます。彼女の愛する騎士は、遠くパレスチナへ十字軍として赴いています。数年の月日が流れ、彼は無事なのか、再び巡り会える日は来るのか、深い不安と切ない想いが彼女の心を占めています。

2. アレグロ・アッパッショナート（ヘ短調）
彼女の脳裏には、戦場で傷つき、置き去りにされた騎士の痛ましい姿が幻影のように浮かび上がります。彼のもとへ飛んで行き、共に命を終えたいと願う彼女は、激しい不安に打ちひしがれてその場に倒れ込んでしまいます。その時、遠くからトランペットの響きがこだまし、森の向こうで陽光を浴びて輝く何かが、徐々に近づいてくるのが見えます。

3. テンポ・ディ・マルチャ（ハ長調）
近づいてきたのは、十字軍の甲冑をまとい、旗をなびかせた騎士たちとその従者たちです。彼らを迎える群衆からは、称賛の声が沸き起こります。その中に、待ち焦がれた彼女の夫である騎士の姿がありました。彼女は彼の胸に飛び込み、劇的な再会を果たします。

4. プレスト・ジョコーソ（ヘ長調）
再会を果たした二人は、尽きることのない幸福に包まれます。木々のざわめきも、波の音も、まるで愛の歌を歌っているかのようです。無数の声が、愛の勝利を高らかに宣言します。

このコンツェルトシュテュックの演奏時間は約16分です。楽器編成は、ピアノ独奏に加えて、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン1、ティンパニ、そして弦五部という、当時の標準的な規模のオーケストラが用いられます。

作品の背後にある「女性が騎士を待ちわび、離別を経て喜びの再会を遂げる」という主題は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1810年に作曲したピアノソナタ第26番 変ホ長調 作品81a『告別』で探求したテーマと共通性が見られます。また、当時12歳だったフェリックス・メンデルスゾーンは、この曲の初演をほぼ確実に聴いており、後に自身の重要な演奏会レパートリーの一つとしました。特に18歳で開いた初の公開演奏会（1827年2月20日）では、自身の『夏の夜の夢』序曲とともにこの曲を演奏し、成功を収めています。

フランツ・リストは、この作品が単一楽章で物語を語るという形式上のアイデアから影響を受け、自身の『ピアノ協奏曲第2番』に応用しました。リストはこのコンツェルトシュテュックのピアノパートに対し、よりヴィルトゥオーゾ的な改訂版（S.367a）やピアノ独奏版（S.576a）も作成しており、その影響力の大きさを物語っています。この曲のピアノ技巧で特に印象的なのは、全曲で計3回現れるオクターブのグリッサンドであり、第3の部分に1回、終曲部分に2回登場し、演奏効果を高めています。

ウェーバーの「ピアノと管弦楽のための小協奏曲」は、その技巧的なピアノ演奏、色彩豊かなオーケストレーション、そして何よりも明確で心揺さぶる物語性によって、今なお多くの聴衆を魅了し続けているロマン派初期の重要な作品です。

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