ピクニック (1955年の映画)

ピクニック（Picnic）

1955年に製作・公開されたアメリカ合衆国の恋愛ドラマ映画。1953年にブロードウェイで初演され、ピューリッツァー賞に輝いたウィリアム・インジの同名戯曲を原作とし、舞台版も手掛けたジョシュア・ローガンが監督を務めました。主演はウィリアム・ホールデンとキム・ノヴァク。当時の最新技術であるテクニカラーとシネマスコープを用いて撮影された作品です。

物語の舞台は、カンザス州にある架空の小さな町サリンソン（モデルはサライナやハッチンソン）。労働祭の休日である9月第一月曜日の朝、所持金もなく空腹状態の青年ハル・カーターが、貨物列車から降り立ちます。線路近くに住む未亡人ヘレン・ポッツの家で、庭仕事を手伝うことによって朝食を得たハル。

その隣には、夫に去られて離婚した母フローと、19歳の美しい姉マッジ、高校生の妹ミリー、そして中年教師のローズマリーが暮らすオウェンズ家がありました。ハルが上半身裸で働く姿は、隣家から丸見えです。オウェンズ家の姉妹は、外見と内面が対照的です。皆から美貌を称賛されるマッジに対し、読書家で聡明ながら地味な外見のミリーは、常に姉への不満を募らせています。しかし、ミリーは既に大学の奨学金を確保しており、将来はニューヨークで作家になるという明確な夢を持っています。

ハルは大学時代の友人アラン・ベンソンを頼って町に来ましたが、アランは地元の有力者である穀物倉庫経営者の息子でした。アランはハルに倉庫での仕事を紹介しようと申し出ます。大学でフットボールのスター選手だったハルは、学業不振で中退した後、職を転々としていました。マッジはアランと交際しており、母フローは娘が裕福な家柄と結婚することを強く望んでいます。しかし、マッジは身分の差がある結婚にためらいを感じていました。フローはマッジに対し、自身の父親が州議会議員だったことから身分差などないと励まし、アランとの関係が進展することを強く望む態度を隠しません。一方、アランの父親はこの結婚に歓迎的な様子ではありませんでした。

その夜、町恒例のイベントである「ピクニック」が開催されます。夏休み最後を締めくくるこの祭りは、商工会議所主催で町中が参加する賑やかな催しです。マッジはアランと、ローズマリーは隣町で雑貨店を営む中年独身男ハワードと、そしてハルはアランから車を借りてミリーと共に会場へ向かいます。郡内は禁酒ですが、酒好きなハワードはウィスキーを隠し持って参加します。

祭りの会場では、のど自慢や様々なゲーム・競技が行われ、大いに盛り上がります。そして、その年の「ニーウォラ女王」が発表され、マッジが選ばれます。ニーウォラは10月31日に行われるカンザス州特有の祭りで、マッジはその日の女王を務めることになります。ミリーによれば、マッジは前年も次点だったことから、今回の選出は事前に予想されていたことでした。マッジの選出に、フローやヘレン、アランは大喜びします。

女王発表後も演奏は続き、ウィスキーで陽気になったローズマリーがダンスを始めますが、ミリーは踊り方を知りません。それを見かねたハルがミリーに踊り方を教え、その後、近づいてきたマッジと「ムーン・グロウ」に合わせて見事に踊ります。その頃、悪酔いしたローズマリーがハルに絡み始め、ハルをマッジに奪われた形となったミリーは、やけになってハワードのウィスキーを呷り気分が悪くなり騒ぎを起こします。ハワードが懸命に弁護しますが、全てがハルのせいにされてしまい、アランにも非難されたハルはその場から逃げ出します。

マッジはハルを追ってアランの車に乗り込みます。川沿いで、ハルは少年時代の過ち（オートバイ窃盗で少年院へ送られた経験）や、自分の人生が失敗続きだったことをマッジに打ち明けます。マッジの方から身を寄せ、二人はキスを交わします。家の外に戻った二人は、翌日仕事が終わってから会う約束をします。

ハルはアランに車を返すため家に戻りますが、マッジの心がハルに傾いていることに気付いたアランは、ハルを排除するため警察に通報し、車泥棒として逮捕を求めます。アランと駆けつけた警官2人を殴り倒したハルは、車でアランの家から逃走し、警官が追跡します。アランは「このまま逃げ切って欲しいぜ」とつぶやきます。

警官をまいたハルはハワードのアパートに現れ、一晩泊めてくれるよう頼みます。ハワードはハルの状況に同情しますが、自身も悩みを抱えていました。祭りでの醜態から自己嫌悪に陥っていたローズマリーが、彼に結婚を命令調で依頼してきたのです。婚期を逃していたローズマリーは、それまでハワードに傲慢な態度を取っていました。ハワードは「自分と結婚しろと命令してくる女と結婚するなんて…」とその時つぶやいていました。

翌朝、ハワードはオウェンズ家を訪れ、結婚は少し待ってほしいと伝えるつもりでしたが、ローズマリーは彼を見るなり、迎えに来てくれたと浮き足立ちます。人の良いハワードは彼女の誤解に合わせるように振る舞ってしまいます。階段でマッジとすれ違った際、ハワードは車の後部座席にハルが隠れていることをマッジに告げます。ミリーや子供たちが「新婚」のハワードの車を飾り付ける前に、ハルは車から抜け出します。

ハワードとローズマリーが急遽決めた新婚旅行へ出発する中、ハルとマッジは家の裏の小屋の前で再会します。ハルはマッジに愛を告白し、タルサ（オクラホマ州）に来てほしいと頼みます。以前のようにメイヨー・ホテルで住み込みで働けるから、そこで結婚しようと誘います。二人の様子を見つけたフローは警察に通報すると脅しますが、ハルとマッジはキスを交わします。

ハルはマッジに「君は僕を愛している！君も分かっている筈だ！」と叫び、通り過ぎる貨物列車に飛び乗ります。オウェンズ家の二階の部屋で、ミリーはマッジに「人生で一度ぐらい何か思い切ったことをしなよ！」と強く言い、ハルの元へ行くよう促します。マッジは小さなスーツケースに荷物を詰め、一時の感情に流される愚かさを厳しく戒める母親の涙をよそに、清々しい表情でタルサ行きの長距離バスに乗り込みます。ミリーはそれを満足げに見つめ、手を振って見送ります。

制作背景と逸話

本作の撮影は主にカンザス州ハッチンソンで行われましたが、冒頭の駅舎やベンソン邸はサライナ、オウェンズ家やポッツ家、ラストのバス停留所はニッカーソン、ピクニック会場はハルステッド、湖はスターリングと、州内の様々な場所がロケ地として使用されました。劇中で「サリンソン」という町名が明らかになるのは、終盤でフローが読む新聞の記事からです。主演のキム・ノヴァクがアルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』（1958年）で演じたジュディ・バートンも、カンザス州サライナ出身という設定であり、また『ピクニック』のマッジと同様に小売店の店員でした。

また、本作に関連する有名な逸話として、1957年に行われたとされるサブリミナル広告の実験があります。市場調査員のジェームズ・ヴィカリーは、この映画のフィルムに「コカ・コーラを飲め」「ポップコーンを食べよう」といったメッセージを短時間（3000分の1秒）挟み込む実験を行い、ヴィカリーによれば飲料とポップコーンの売上が大幅に増加したと報告しました。ヴィカリーはこの実験を基に「サブリミナル広告」という言葉を生み出し、会社を設立しましたが、その後の追試では同様の効果は確認されず、実験自体が行われたかどうかも疑問視されています。科学的にはその効果がほぼ否定されているものの、このエピソードはサブリミナル効果を語る際に必ず引き合いに出され、後に多くの国や地域でサブリミナル広告が禁止される要因の一つとなりました。

主なキャスト

ウィリアム・ホールデン as ハル・カーター
キム・ノヴァク as マッジ・オーウェンズ
ロザリンド・ラッセル as ローズマリー・シドニー
ベティ・フィールド as フロー・オーウェンズ
スーザン・ストラスバーグ as ミリー・オーウェンズ
クリフ・ロバートソン as アラン・ベンソン
アーサー・オコンネル as ハワード・ベヴィンス
ヴァーナ・フェルトン as ヘレン・ポッツ
ロバート・レヴィット as フランク・ベンソン

主なスタッフ

監督: ジョシュア・ローガン
製作: フレッド・コールマー
脚色: ダニエル・タラダッシュ
音楽: ジョージ・デューニング
撮影: ジェームズ・ウォン・ハウ
編集: チャールズ・ネルソン、ウィリアム・A・ライオン
美術: ウィリアム・フラネリー

主な映画賞受賞・ノミネーション

受賞:
アカデミー美術賞（カラー）
アカデミー編集賞
ゴールデングローブ賞 監督賞
ノミネーション:
アカデミー作品賞
アカデミー監督賞
アカデミー助演男優賞（アーサー・オコンネル）
アカデミー作曲賞（劇・喜劇映画）
英国アカデミー賞作品賞
英国アカデミー賞海外男優賞（ウィリアム・ホールデン）
英国アカデミー賞海外女優賞（キム・ノヴァク）

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