ピラール要塞

ピラール要塞：歴史と信仰が交錯する場所

ピラール要塞は、フィリピンのサンボアンガに位置する歴史的な要塞です。その正式名称は「レアル・フエルテ・デ・ヌエストラ・セニョーラ・デル・ピラール・デ・サラゴザ」といい、「サラゴサにある王立ピラールの聖母要塞」という意味を持ちます。この要塞は、スペイン植民地時代に海賊やミンダナオ、ホロ島のスルタンの襲撃から守るために建設されました。今日では、フィリピン国立博物館の地方博物館の一つとして、またサンボアンガの主要なランドマークとして、その歴史と文化を伝えています。

スペイン植民地時代の建設

1635年、イエズス会の宣教師たちの要請を受け、当時の総督フアン・セレソ・デ・サラマンカは石造りの要塞の建設を承認しました。当初は「王立聖ヨセフ要塞」と呼ばれていましたが、その礎石はイエズス会の聖職者であり技術者でもあったメルコール・デ・ベラによって、1635年6月23日に置かれました。この日は、サンボアンガが市として昇格した記念すべき日でもありました。要塞の建設には、スペイン人、メキシコ人、ペルー人に加え、カヴィテ、セブ、ボホール、パナイ島などからも労働者が集められ、多文化が混ざり合う環境下で、ピジン言語としてのチャバカノ語が誕生し、やがてサンボアンゲーニョの人々が使うクレオール言語へと発展しました。

度重なる襲撃と改築

1646年には、オランダ軍による攻撃を受け、スペイン軍は一時的に要塞を放棄しました。その後、1669年にイエズス会の宣教師たちが要塞を再建しましたが、1718年から1719年にかけて総督フェルナンド・マヌエル・デ・ブスティーリョ・ブスタマンテ・イ・ルエダの命により、技術者フアン・シカーラによって改築されました。この時、要塞は「レアル・フエルテ・デ・ヌエストラ・セニョーラ・デル・ピラール・デ・サラゴザ」と改名され、ピラールの聖母に捧げられました。1798年には、イギリス海軍による砲撃を受けましたが、要塞は十分に持ちこたえ、その堅牢さを示しました。

聖母の出現伝説

1734年、要塞の東側の壁にピラールの聖母のレリーフが設置され、祭壇付きの屋外礼拝所となりました。伝説によれば、1734年12月6日、ある兵士の前に聖母マリアが現れたとされています。また、アメリカ陸軍のジョン・H・マギー大尉は、オランダ船が要塞を包囲した際に聖母マリアが現れ、守備隊に勝利を確信させたという話を書き残しています。さらに、1897年の地震の際には、聖母がバシラン海峡上を浮遊し、津波から町を護ったという逸話も伝えられています。これらの話は、1976年の地震の際にも繰り返され、聖母が人々を救ったと信じられています。

アメリカ植民地時代と第二次世界大戦

米西戦争後、ピラール要塞はサンボアンガ共和国革命政府に投降し、その後アメリカ軍によって確保されました。第二次世界大戦中には、日本軍が一時的に占領しましたが、1945年にアメリカ軍とフィリピン軍によって奪還され、1946年にフィリピン政府に返還されました。

要塞の修復と今日の姿

1973年、ピラール要塞は国家文化財に認定されましたが、長らく放置されていました。1980年代にフィリピン国立博物館による修復が始まり、要塞内にある建物のうち3棟が再建されました。現在は博物館の分館として公開されており、海洋生物や歴史に関する展示が行われています。また、南側の建物は遺跡としてそのまま残され、要塞の内部と外側は手入れの行き届いた庭園となっています。埋め立てによって作られた散策路であるパセオ・デル・マールは、要塞を海の侵食から守っています。

今日のピラール要塞は、聖母マリアを祀るローマ・カトリック教会の礼拝所であり、フィリピンの歴史と文化を伝える重要な場所です。その壁は過去の戦いの痕跡を物語り、敷地内では静寂と信仰が息づいています。

ギャラリー

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