ピリッポイ

古代都市ピリッポイ：歴史と遺跡

ピリッポイ（古代ギリシア語: Φίλιπποι / Philippoi）は、現在のギリシャ領東マケドニア地方に位置していた古代都市です。紀元前356年にマケドニア王ピリッポス2世によって創建され、その後の歴史の中で重要な役割を果たしました。14世紀にオスマン帝国に征服された後、都市は廃れましたが、その遺跡は現在も残っており、2016年にはユネスコの世界遺産に登録されています。

創建と初期

ピリッポイは、タソス人の植民都市クレニデスがあった場所に建設されました。エーゲ海の最北端近く、オルベロス山の麓に位置し、カヴァラの北西約12kmにあります。当時、周囲は沼地であり、ピリッポイはパンガイオン丘陵から隔てられていました。ピリッポス2世は、この都市を金鉱開発の促進と軍事防衛の拠点として利用することを目指していました。また、アンピポリスとネアポリスを結ぶ街道の要衝でもあり、後のエグナティア街道の基礎となりました。

ピリッポス2世以降、歴代の王はピリッポイに自治権を与え、南の沼地の干拓も行われました。紀元前167年には、アンティゴノス朝が滅亡し、ローマ領となったマケドニアは分割され、ピリッポイはアンピポリスを首都とする東マケドニアに編入されました。この時代の遺構はあまり残っていません。

ローマ時代

ローマ内戦時代、ユリウス・カエサルの死後、オクタウィアヌスとマルクス・アントニウスは連合し、カエサルの暗殺者たちをピリッポイの西で破りました（フィリッピの戦い、紀元前42年）。この戦いの後、勝者たちは退役兵をピリッポイに入植させ、都市をコローニア・ウィクトリクス・ピリッペンシウムと改称しました。さらに、オクタウィアヌスは市の再建を進め、イタリアから多くの退役兵を移住させ、都市はコローニア・ユリア・ピリッピネンシス、そしてコローニア・アウグスタ・ユリア・ピリッピネンシスと改名されました。

都市はローマ風に区画整理され、マケドニア時代の市城の一部はそのまま利用されました。ギリシア風のアゴラに加えてローマ風のフォルムが建設され、ローマ法が適用されました。ピリッポイは付近の金鉱山のおかげで経済的に繁栄し、エグナティア街道沿いの重要な都市として発展しました。この時代には、大きなモニュメントが多数建設され、劇場も拡張されました。ラテン語の碑文が多数出土しており、当時の繁栄ぶりを伝えています。

使徒パウロは、紀元後49年か50年頃にピリッポイを訪れ、キリスト教の伝道を行いました。紫布を商う女性リュディアに洗礼を授け、ヨーロッパで初めてキリスト教に改宗した人々を生み出しました。パウロはまた、占いをする少女から悪霊を追い出したことで逮捕・投獄されましたが、地震によって牢屋が開くという奇跡が起こり、牢番とその家族がキリスト教に改宗しました。パウロはその後もピリッポイを訪れ、その影響は新約聖書『フィリピの信徒への手紙』からも窺い知ることができます。

初期キリスト教時代

ピリッポイで最初に知られている教会は、小さな祈りの家でした。その後、343年のセルディカ教会会議に出席した主教ポルピュリオスの書簡から、この時期に建てられたと思われる「パウロ聖堂」が建設されました。ピリッポイは5世紀と6世紀にはこの地域のキリスト教の中心となり、多くの教会建築が建てられました。特に、5世紀末に建てられた八角形の大聖堂は、コンスタンティノポリスの聖堂に匹敵するほどのものでした。

この時期には、バルカン人の侵入に備えて都市の城塞が再建され、473年には東ゴート人に包囲されましたが、都市は陥落を免れました。

ビザンティンおよびオスマン時代

6世紀末、スラヴ人の侵略と疫病によりピリッポイは衰退しました。619年頃の地震で都市は完全に破壊され、その後は村落程度の規模に縮小しました。東ローマ帝国はピリッポイに守備隊を駐屯させましたが、838年にはブルガール人に占領されました。その後、東ローマ帝国は850年頃にピリッポイを回復しました。969年頃には、ニケフォロス2世フォカスによってアクロポリスと都市の一部が再び城塞化されました。

1204年の第4回十字軍によるコンスタンティノポリス占領後、ピリッポイはフランク人、次いでセルビア人に支配されました。1354年には、東ローマ帝国の帝位僭称者マタイオス・カンタクゼノスがこの地でセルビア人に捕らえられました。16世紀には、ピリッポイは廃墟となっており、石切り場として利用されるようになりました。

ピリッポイの発掘調査

16世紀の旅行者による記録の後、1856年にペローによって最初の考古学的記述がなされ、1914年に発掘調査が開始されました。第一次世界大戦による中断を挟み、1920年から1937年にかけて、ギリシア時代の円形劇場、フォルム、バシリカAおよびB、公衆浴場、市壁などが発掘されました。第二次世界大戦後、発掘調査は再開され、1958年から1978年には主教区画、八角形の聖堂、私邸、博物館近くの聖堂、墓地の教会などが発掘されました。

世界遺産

ピリッポイは、その歴史的価値と遺跡の重要性から、世界遺産に登録されています。登録基準は以下の通りです。

現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

ピリッポイは、古代都市の歴史、ローマ帝国の影響、初期キリスト教の普及、そしてその後の変遷を物語る貴重な遺跡として、今日までその姿を伝えています。

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