ピロイティオス

ピロイティオス

ピロイティオス（古希: Φιλοίτιος, ラテン語: Philoetius）は、古代ギリシアの叙事詩人ホメーロスによって描かれた、『オデュッセイアー』に登場する人物です。彼は、イタケー島の賢明な王オデュッセウスに仕える、きわめて忠実な牛飼いとして知られています。

まだ幼い頃からオデュッセウスの命を受け、牛の世話を任されていたピロイティオスは、長年にわたりその職務を真摯に果たし、主人の大切な家畜を守ることに尽力しました。しかし、オデュッセウスがトロイア戦争から帰還できずにいる間に、王宮はペーネロペーに言い寄る多くの求婚者たちに占拠されてしまいます。彼らはオデュッセウスの財産を勝手に消費し、ピロイティオスもその贅沢な生活のために、主人の牛を提供せざるを得ないという苦しい立場に置かれました。このような状況下でも、ピロイティオスのオデュッセウスへの深い忠誠心は揺らぐことはありませんでした。

変装してイタケーへ帰還したオデュッセウスが、乞食に身をやつして館を訪れた際、ピロイティオスは彼と出会います。主人の正体を知らぬまま、ピロイティオスはその見慣れない乞食の哀れな姿に同情し、思わず涙を流しました。そして、自身の心の内に抱える苦悩と、主人の無事な帰還への切なる願いを打ち明けます。「ああ、どうか主人が戻ってきて、この不埒な求婚者たちを打ち倒してくださらないものか」と。これを聞いたオデュッセウスは、ピロイティオスとその忠誠を認め、彼の望みは必ず成就すると告げます。ピロイティオスは、同じく忠実な家臣である豚飼いのエウマイオスと共に、もし主人が帰還したならば、そのために命を懸けて力を尽くすことを神に誓いました。

求婚者たちがペーネロペーとの結婚相手を決めるための弓競技を開始すると、ピロイティオスはエウマイオスと共に館の外に出ます。そこに現れたオデュッセウスは、改めて彼らの忠誠を試すかのように問いかけます。「もしオデュッセウスが帰還したら、お前たちはどちらの側につくのか？主人か、それとも求婚者たちか？」ピロイティオスとエウマイオスは、迷うことなく主人への変わらぬ忠誠を誓い、主人のためならどのような犠牲も厭わない覚悟があることを表明しました。この揺るぎない忠誠心を見たオデュッセウスは、身につけていたぼろを払い、かつて猪に負わされた足の傷跡を見せることで、ついに自らの正体を明かしました。ピロイティオスとエウマイオスは、待ち望んだ主人の帰還に感極まり、涙を流して喜び、その足元にひれ伏しました。

オデュッセウスが求婚者たちへの報復を開始する準備を進める中、ピロイティオスはエウマイオスと共に重要な役割を担います。エウマイオスがオデュッセウスに弓と矢を運んだ後、ピロイティオスはオデュッセウスからの合図を受けて、中庭に通じる館の大きな門を固く閉鎖しました。これは、驚愕した求婚者たちが館の外へ逃走することを防ぐための決定的な行動であり、その後の報復戦の成功に不可欠でした。

報復の戦闘が始まると、ピロイティオスはオデュッセウス、そしてその息子テーレマコスの側に立ち、求婚者たちを相手に勇敢に戦いました。彼は求婚者たちに加担していた不忠な山羊飼いメランティオスを、エウマイオスと共に捕らえて手足に縄をかけ、身動きできないようにする功を立てます。さらに、多くの求婚者たちを討ち取る活躍を見せ、特にペイサンドロスやクテーシッポスといった有力な求婚者たちを自身の手で打ち倒しました。激しい戦いの末、求婚者たちが一人残らず倒されると、ピロイティオスはテーレマコス、エウマイオスと共に、求婚者たちと密通していた不忠な下女たちに対する処罰にも関与し、また捕らえていたメランティオスにも厳しい最期を与えました。

このように、ピロイティオスはオデュッセウスの長き不在の間も忠誠を守り続け、帰還した主人の復権という危機的な局面において、エウマイオスと共に最も信頼できる協力者として、その勇気と忠実さを発揮しました。彼の存在は、『オデュッセイアー』における理想的な忠実な家臣像を象徴しています。

もう一度検索