クテーシッポス

ギリシア神話の世界には、クテーシッポス（古希: Κτήσιππος）という名を持つ人物が複数登場する。長母音を省略してクテシッポスとも表記されるこの名前は、特に英雄ヘーラクレースの子として、あるいは叙事詩『オデュッセイアー』に描かれるペーネロペーの求婚者の一人として知られている。これらの人物はしばしば混同されることがあるが、出自や生涯はそれぞれ異なっている。

ヘーラクレースの子

ヘーラクレースの子とされるクテーシッポスは、系譜によって異なる母を持つとされる。

一説によれば、彼は大英雄ヘーラクレースと、その二番目の妻であるデーイアネイラとの間に生まれた四人の息子のうちの一人である。彼の兄弟には、ヘーラクレースの後継者として名高いヒュロスをはじめ、グレーノス、オネイテースがおり、またマカリアーという姉妹がいた。このクテーシッポスはトラシュアノールの父となり、その子孫はさらにアンティマコス、デーイポンテースといった人物に続いた系譜が伝えられている。また、アルゴリス地方に位置する都市クレオーナイを支配したアガメーディダースも彼の末裔とされている。このアガメーディダースの子テルサンドロスには、ラトリアーとアナクサンドラーという双子の娘が生まれ、それぞれがスパルタ王となったアリストデーモスの双子の子、プロクレースとエウリュステネースと結婚したという。これにより、クテーシッポスの血筋がスパルタの二つの王家と結びつくことになった系譜も存在している。

また別の伝承では、クテーシッポスはヘーラクレースがオルメニオンの王アミュントールの娘アステュダメイアとの間にもうけた子とされている。この記述は、古代ギリシアの神話集成を編纂したアポロドーロスや、歴史家シケリアのディオドーロスの著作に見られる。

ペーネロペーの求婚者

トロイア戦争からの帰還を果たせないオデュッセウスの館に押し掛け、その妻ペーネロペーに執拗に結婚を迫った大勢の求婚者たちの中にも、クテーシッポスという人物がいた。彼はサメー島（現在のケファロニア島の一部）の出身で、ポリュテルセースの子である。このクテーシッポスは、他の求婚者たちの中でも特にその性格の悪さで知られていた。彼は非道かつ邪悪で、思慮に欠けた短慮な言動が多く、常に口汚く、暴力的な振る舞いを厭わない男だった。

ホメーロスの壮大な叙事詩『オデュッセイアー』の中で、クテーシッポスの傲慢さは鮮明に描かれている。オデュッセウスが乞食に身をやつして自らの館に潜入した際、求婚者たちと同じように食卓で食事を与えられているのを見たクテーシッポスは、彼を嘲弄しようとした。「さあ、わしからも土産をやろうではないか」と皮肉たっぷりに言い放ち、「そうすれば、お前もこのオデュッセウス様の館で働く者たちに心付けをやることができるだろうからな」と続けた。そして、手近な籠の中にあった牛の脚を掴み上げると、それを変装したオデュッセウスの顔めがけて投げつけたのである。しかし、オデュッセウスは間一髪で首を捻り、この無礼な投擲をかわした。その場に居合わせたオデュッセウスの息子テーレマコスは、父に対する侮辱行為を目にし激怒し、クテーシッポスに向かって「クテーシッポスよ、客人に当たらなかったのはお前の命拾いだったぞ。もし当たっていたなら、私の槍がお前の腹を突き貫いていたところだ！」と、父親としてではなく客人として厳しく叱責した。

後にオデュッセウスが正体を明かし、息子や忠実な家臣たちと共に求婚者たちに対する討伐を開始した際、クテーシッポスも他の求婚者たちと同様に武器を取って抵抗した。彼はオデュッセウス側の一員である忠実な豚飼いエウマイオスに向けて槍を投げつけたが、エウマイオスが盾を構えたため、槍は彼の肩をかすめるに留まった。しかし、その直後、オデュッセウスに味方した牛飼いピロイティオスが放った槍が彼の胸を深く貫き、クテーシッポスはそのまま倒れて息絶えた。ピロイティオスは、打ち倒したクテーシッポスの亡骸に向かって、「今後は思慮もなく偉そうなことを言うのはやめておくことだな。この一撃は、以前お前がオデュッセウス様に対して投げつけたあの牛の脚の返礼だ！」と言い放ち、彼の横暴な生涯に幕が下ろされたのである。

その他の人物

ペーネロペーの求婚者の中には、イタケー出身でクテーシッポスという名の人物もいたとする記録も存在する。

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