ピンドス公国・マケドニア公国

ピンドス公国：幻のアルーマニア人国家

ピンドス公国（またはマケドニア公国）は、第二次世界大戦中の1941年から1944年にかけて、ギリシャ北西部に存在した短命な国家です。イタリア王国の傀儡国家として成立し、アルーマニア人の分離主義者によって建国が主導されました。しかし、その内政は混乱を極め、最終的には崩壊へと向かいました。

背景：アルーマニア人とギリシャ

アルーマニア人は、ルーマニア語に近い言語であるアルーマニア語を話す民族です。彼らは伝統的にギリシャ北部に居住していましたが、ギリシャにおいてはラテン系の言語を話すギリシャ人とみなされる傾向がありました。18世紀以降、ギリシャ正教の教会によるギリシャ語教育が進められ、アルーマニア人のギリシャへの同化が進められていました。

公国の成立

第二次世界大戦中、イタリアはギリシャを占領し、その支配下に置きました。1941年夏、イタリアの占領下にあったギリシャ北西部において、アルキヴィアド・ディアマンディによってピンドス公国が建国されました。公国の領域は、現在のギリシャ北部、アルバニア、北マケドニアの一部に相当します。首都はメツォヴォに置かれましたが、国会はトリカラに設置されました。

ディアマンディとイタリアの関係

アルーマニア人による独自の国家を建設するという構想は、19世紀後半のルーマニアで生まれました。ディアマンディは、第一次世界大戦中の1917年、イタリア占領下のアルバニア南部において「ピンドス共和国」の建国を宣言しましたが、これは短期間で失敗に終わりました。しかし、この出来事がディアマンディとイタリアとの関係の始まりとなりました。

大公の変遷と内政の混乱

ピンドス公国の大公には、ディアマンディがアルキヴィアデス1世として就任しました。しかし、彼は地元アルーマニア人からはイタリアの手先と見なされ、人心を得ることはできませんでした。1942年春以降、公国の領域はギリシャの対枢軸国ゲリラの活動によって荒廃し、同年6月、アルキヴィアデス1世はルーマニアへ逃亡しました。

その後、大公位はハンガリーとクロアチアの貴族であるチェスネキー家に提供され、チェスネキー・ジュラがユリウス1世として即位しました。しかし、ユリウス1世もまた、実権を持つことはありませんでした。公国は反ギリシャ主義でしたが、反ユダヤ主義ではなかったとされています。

公国の崩壊

1944年9月、イギリス軍がギリシャに上陸し、11月にはドイツ軍がバルカン半島から撤退しました。これにより、ピンドス公国は消滅し、ギリシャは再統一されました。その後、ギリシャは右派勢力と共産勢力の対立が激化し、内戦へと突入しました。

ピンドス公国は、第二次世界大戦という混乱の中で生まれた、短命な傀儡国家でした。アルーマニア人の民族自決の願望が背景にありましたが、その内政は混乱し、周辺国の思惑に翻弄される結果となりました。

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