ピンドス山脈

ピンドス山脈

ピンドス山脈（ギリシャ語: Πίνδος、英語表記: Pindus, Pindos, Pindhos）は、ギリシャ北部からアルバニア南部にかけて広がる広大な山地です。日本ではピンドゥス山脈とも表記されます。この山脈は、全長およそ160キロメートルに及び、最高峰は標高2,637メートルのスモリカス山です。地理的には、ギリシャのテッサリア地方とイピロス地方の境を形成していることから、「ギリシャの背骨」という別名でも広く知られています。地質学的には、バルカン半島西部に連なるディナル・アルプス山脈の南端部分にあたるとされています。山脈の広がりは、アルバニア領の北イピロス地域から、ギリシャ北部を横断し、マケドニア地方を経て、遠くペロポネソス半島にまで及ぶこともあります。

地理と主な山々

ピンドス山脈には、その長い稜線に沿って多くの有名な峰々が点在しています。代表的な山としては、グラモス山、最高峰のスモリカス山、ヴァシリツァ山、ティムフィ山、ラクモス山、ズメルカ山、アグラファ山などが挙げられます。これらの山々は、変化に富んだ地形を生み出しており、深い峡谷や急峻な斜面が特徴的です。ギリシャ南部の山々も、広義にはこのピンドス山系の一部として扱われることがあります。

人文と暮らし

山脈の厳しい地形の中にも、多くの村落が形成されてきました。ギリシャ国内で最も標高の高い場所に位置するとされるサマリナ村も、このピンドス山中にあります。これらの村の多くは、伝統的に牧羊や農業を生業としてきたアルーマニア人（ヴラフ人）の人々によって営まれてきました。近年では、メトソヴォをはじめとするいくつかの村が、美しい自然環境を活かしたスキーリゾートとして開発され、観光地として発展を遂げています。

交通

ピンドス地方へのアクセスは、主要な高速道路によって改善されています。エグナティア高速道路は、この山岳地域とギリシャ国内の他の地域を結ぶ主要な交通路として機能しています。

自然環境と生態系

ピンドス山脈は、標高によって大きく環境が変化するため、非常に多様な生態系を有しています。深い峡谷の底部から、樹木の生えないような険しい山頂付近まで、様々な環境が見られます。標高の高い地点では、ビャクシン属の低木や、ギリシャモミ、ヨーロッパクロマツといった寒さに強い針葉樹が中心的な植生を構成しています。一方、山の中腹や山麓にある渓谷や峡谷部では、温暖な環境を好む多様な広葉樹林が広がっています。

水辺の環境も豊かです。ピンドス山中にある湖は、アオサギ、ヘラサギ、シラサギ、そしてペリカンなどの様々な水鳥にとって重要な繁殖地となっています。また、広大な森林地帯には、オオカミやジャッカル、クマといった大型の哺乳類が生息しており、野生動物の宝庫となっています。

環境問題

人類がこの地域に定住して以来、ピンドス地方の豊かな森林は様々な人為的な影響にさらされてきました。過去には過放牧、農耕のための開墾、そして森林伐採などが森林破壊の主要な原因でした。しかし今日、最も深刻な脅威となっているのは、観光開発、特にスキーリゾート開発に伴う環境破壊です。ピンドス山脈は斜面が急で土壌が不安定な場所が多いため、道路建設や森林伐採といった開発行為は、地滑りを引き起こすリスクを高めます。さらに、ボーキサイトの採掘活動、依然として続く過放牧、そして希少な野生植物の過剰な採取なども、この地域の貴重な生物多様性に悪影響を及ぼしています。

国立公園

ピンドス山脈のギリシャ側には、この貴重な自然を保護するために二つの国立公園が設立されています。

ヴィコス＝アオース国立公園

1973年に設立されたヴィコス＝アオース国立公園は、コニツァの南、ザゴリ地方の西部に位置しています。この公園は、ティムフィ山や、深く切り立ったヴィコス峡谷、アオース峡谷といった壮大な景観で知られています。

ピンドス国立公園

ピンドス国立公園は、1966年に約7000ヘクタールの範囲が指定された、ピンドス山脈の北東部に位置する国立公園です。メトソヴォの北、ペリヴォリの南に位置するこの地域は、比較的人里離れた場所にあります。公園内には、クロマツやブナの広大な森が広がり、標高の高い場所にはボスニアマツ (Pinus leucodermis) も見られます。動物としては、クマ、ヤマネコ、オオヤマネコなどの希少な哺乳類が生息しています。ピンドス国立公園の美しい自然、特に野鳥や草花、そしてクロマツの群落は、その象徴的な価値から、2007年に発行されたギリシャの10ユーロ記念硬貨のデザインモチーフにも選ばれています。

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