ファニー・コーンフォース

ファニー・コーンフォース：ラファエル前派のミューズ、波乱の人生

ファニー・コーンフォース（1835年-1909年）は、19世紀イギリスで活躍したラファエル前派の画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの愛人であり、重要な絵画モデルとして知られています。ロセッティの作品に数多く登場する彼女は、彼の創作に深く関与し、ミューズとしての役割を果たしました。しかし、彼女の人生は華やかな表舞台とは裏腹に、複雑で困難な道のりでした。

生い立ちとロセッティとの出会い

サラ・コックスとしてサセックスに生まれた彼女は、鍛冶屋の娘として貧しい労働者階級で育ちました。若い頃はブライトンで家政婦として働いていました。1856年、ロセッティと出会い、彼のモデルとして活動を始めます。ロセッティは既婚者であったものの、妻エリザベス・シダルの病気療養中、コーンフォースと密接な関係を築きました。

二人の関係は、単なるモデルと画家の枠を超えて、愛人関係へと発展します。ロセッティの作品におけるコーンフォースの描写は、他のモデルによる作品と比較して、より官能的で大胆な表現が目立ちます。これは、二人の親密な関係性を反映していると考えられます。コーンフォースは、ロセッティの家庭にも入り込み、家政婦としての役割も担いました。

社会的地位と二人の関係の葛藤

コーンフォースは、労働者階級出身という出自や教育の欠如から、ロセッティの友人や家族からは受け入れられませんでした。彼女の粗野なアクセントや教養の不足は、彼らに衝撃を与え、二人の関係に反対する声も上がりました。しかし、ロセッティは彼女との関係を続け、二人の間には強い愛情があったことが、手紙や残された作品からうかがえます。

二人の関係は、ロセッティの死まで続きました。しかし、その間にも葛藤はありました。コーンフォースの体重増加は、ロセッティの友人たちから嘲笑の対象となり、二人の間でもジョークの種となりました。ロセッティの健康状態が悪化すると、家族からの圧力により、コーンフォースは一時的にロセッティの家を離れることになります。それでもロセッティは彼女を経済的に援助し続け、二人の関係は長く続きました。

結婚と晩年

ロセッティと別れた後、コーンフォースは役者一家出身の男性と再婚します。しかし、彼女はロセッティを看護するために度々彼のもとへ戻り、献身的な姿を見せています。ロセッティの死後、彼女は夫と共にロセッティの作品を販売するギャラリーを開設するなど、自立した生活を送っていました。

晩年は、夫の死や義理の息子の死を経験し、認知症に苦しむなど、孤独な生活を余儀なくされます。最終的には、保護施設で亡くなりました。彼女の一生は、ラファエル前派の華やかな世界とは対照的に、困難と孤独に満ちたものでしたが、ロセッティの作品に多大な貢献をしたことは、歴史に刻まれています。

ラファエル前派におけるコーンフォース

コーンフォースは、ロセッティの重要な絵画モデルとして、少なくとも60点以上の作品にモデルとして参加しています。彼女の素朴ながらも魅力的な容姿は、ロセッティの作品に独特の雰囲気を与えています。代表的な作品として、『キスされた唇』『ファニー・コーンフォース』『ルクレツィア・ボルジア』『フェア・ロザムンド』『アウレリア』『ブルー・バウアー』『レディ・リリス』『見つかって』『聖杯の乙女』などがあります。これらの作品は、ロセッティの作品の中でも特に有名で、現在も世界中の美術館に所蔵されています。 彼女の肖像画は、ロセッティだけでなく、エドワード・バーン＝ジョーンズやジョン・ロダム・スペンサー・スタンホープといった他のラファエル前派の画家たちによって描かれたものも存在します。

まとめ

ファニー・コーンフォースの人生は、貧困から出発し、ラファエル前派の画家との複雑な関係、そして晩年の孤独まで、ドラマチックな展開を遂げました。彼女の人生は、社会的地位の壁や、時代的な偏見と戦いながらも、一人の女性としての強さと、ロセッティへの揺るぎない愛情を示しています。 彼女の存在は、ラファエル前派の絵画に大きな影響を与え、彼女自身も歴史上の重要な人物として記憶されています。様々な資料や研究を通して、彼女の人生と作品、そしてラファエル前派美術史における彼女の位置づけを深く理解していくことができます。

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