ファルカシュ・ベルタラン

ファルカシュ・ベルタラン（Farkas Bertalan）は、1949年 8月2日にこの世に生を受けた、ハンガリー共和国が誇る最初の宇宙飛行士です。彼の宇宙への旅は、ハンガリーの宇宙開発史における画期的な出来事となりました。さらに、彼は宇宙に到達した人物として、初めてエスペラント語話者であったことでも知られています。

ベルタランは、ハンガリー北東部のジュラハーザ（Gyulaháza）で生まれました。若い頃から航空分野に興味を持ち、1969年にはソルノクにあるジョージ・キリアン航空学校（George Kilián Aeronautical College）で学びを終えました。その後、ソビエト連邦（当時）に渡り、クラスノダールの軍事航空研究所に進学。ここで高度な訓練を受け、1972年に卒業しました。これらの教育機関での経験が、後の宇宙飛行士としてのキャリアの基礎を築くことになります。

教育課程を修了した後、ファルカシュはハンガリー空軍に入隊しました。彼は空軍内で着実に昇進を重ね、最終的には准将の階級にまで達しました。軍務に就く傍ら、宇宙への強い関心を抱き続けた彼は、1978年に宇宙飛行士候補に志願しました。これは、ソビエト連邦が主導した国際宇宙協力プログラム「インターコスモス」の第5次国際プログラムの一環として行われた宇宙飛行士選抜でした。厳しい選考の結果、彼はハンガリー代表として宇宙飛行士に選ばれました。

歴史的な宇宙飛行は、1980年5月26日に実現しました。ファルカシュ・ベルタランは、ソユーズ36号ミッションにおいて、ソビエト連邦の経験豊かな宇宙飛行士ワレリー・クバソフ（Valery Kubasov）と共に、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。このミッションは、インターコスモス計画におけるハンガリーとの共同飛行であり、両国の宇宙分野での協力関係を示すものでした。

宇宙での滞在中、ファルカシュは様々な科学実験に従事しました。特に、物質科学に関する実験に多くの時間を費やしました。地球の軌道上での7日と20時間45分という滞在期間中に、彼は地球の周りを124周しました。これは、地球を俯瞰し、宇宙環境で科学研究を行う貴重な機会でした。

ミッションを終え、ファルカシュとクバソフは、1980年6月3日に地球へ帰還しました。彼らを乗せたソユーズカプセルは、カザフスタンのジェズカズガン（Dzhezkazgan）南東約140キロメートルの地点に着陸しました。無事の帰還後、彼の功績は高く評価され、1980年6月30日にはソビエト連邦から最高栄誉の一つである「ソ連邦英雄」の称号が授与されました。これは、彼の勇気と貢献に対する国際的な承認でした。

ファルカシュ・ベルタランは、後年、同じくハンガリー出身のチャールズ・シモニーが宇宙を訪れたことで、「宇宙に行った唯一のハンガリー人」ではなくなりました。しかし、シモニーが個人で費用を負担した「宇宙旅行者」であったのに対し、ファルカシュは国家のプログラムに基づく「宇宙飛行士」として宇宙へ行った人物です。この違いから、公式な宇宙飛行士としては、2010年時点までファルカシュがハンガリーでただ一人の存在であり続けました。

私生活では、彼は既婚であり、3人の子供がいます。また、スポーツを愛好しており、特にサッカーは彼の趣味の一つです。これらの側面は、宇宙飛行士という特別なキャリアを持ちながらも、一般の人々と同じような生活や関心を持っていることを示しています。

宇宙開発や軍事分野だけでなく、彼は政治活動にも関与しています。ハンガリー民主フォーラムのメンバーとして、社会への貢献を目指しました。2006年のハンガリー議会選挙では、故郷に近いバクタローラーンターザ（Baktalórántháza）選挙区から立候補し、政治の舞台にも足を踏み入れました。

現在は、Airlines Service and Trade の会長を務めており、ビジネス分野でもその手腕を発揮しています。ハンガリー初の宇宙飛行士として、そして国際的な協力プログラムの一員として、彼の生涯は多岐にわたる功績に彩られています。教育、軍事、宇宙、政治、そしてビジネスと、様々な分野で重要な役割を果たしてきたファルカシュ・ベルタランは、ハンガリーの歴史において記憶されるべき人物です。

彼の宇宙飛行の記録は、国際的な宇宙開発協力の重要性を示すとともに、ハンガリーの技術力と勇気を世界に知らしめるものでした。初のハンガリー人宇宙飛行士であり、最初のエスペランティスト宇宙飛行士として、ファルカシュ・ベルタランの名前は、これからも語り継がれていくでしょう。

もう一度検索