ファンタジア号
かつて東京駅と千葉県の東京ディズニーランド（TDL）を結んでいた高速バス路線に「ファンタジア号」という愛称が付けられていました。この路線の正式な名称は「東京湾岸線」です。また、この項目では、時期を同じくして上野駅とTDLを結んだ「上野湾岸線」についても触れます。
ファンタジア号が誕生したのは、東京ディズニーランドが開園した1983年のことです。全国各地から鉄道を利用してTDLを訪れる観光客を、東京駅からスムーズにパークまで送り届けることを目的として開設されました。これは、当時の国鉄バスが掲げていた「鉄道線を補完・培養する」という原則に沿ったものでした。
開業にあたり、国鉄バスにとって初めてとなるハイデッカー車両（三菱K-MS613SA、のちP-MS715S型）が導入されました。同時に、これまでの国鉄バスとは異なる新しい車体カラーリングがお披露目されました。このデザインは、その後のJRバス各社にも引き継がれることになります。また、このハイデッカー導入は、1984年に国鉄専用型式の車両がハイデッカー化されるきっかけの一つともなりました。
1985年には、東北・上越新幹線が上野駅を起点とするようになったことを受け、上野駅とTDLを結ぶ上野湾岸線が開設されました。こちらの路線は、京成電鉄との共同運行となりました。当時のTDLは、鉄道駅からのアクセスが必ずしも便利ではなかったため、これら2つのバス路線は年間を通して多くの利用客があり、1987年の国鉄分割民営化を控えた時期には、国鉄バスの中でも特に収益性の高い路線のひとつとされていました。
しかし、TDLの目の前には既に京葉線の舞浜駅が建設される計画が進んでおり、1990年3月に京葉線が東京駅まで延伸されることが決定しました。これにより、多くの利用客が鉄道へと流れることが避けられない状況となります。理由は明白でした。バスの場合、東京駅からTDLまで35分から長い時で60分程度かかったのに対し、京葉線なら東京駅から舞浜駅までわずか17分で到着します。東京駅での新幹線ホームと京葉線ホームの距離が400メートル離れていても、バスの待ち時間を考慮すれば乗換時間はさほど変わらないと予測されました。さらに、運賃も当時のバス運賃600円に対して鉄道は210円と大幅に安く、鉄道との連絡乗車券を利用すればさらに割安になったからです。
こうした状況に対応するため、東京湾岸線には新たな魅力を加えることで、利用客の減少を食い止めようという方策が講じられました。その一つが、ダブルデッカー車両の投入でした。
1990年3月10日、東京湾岸線には特別な塗装が施されたダブルデッカー車両が導入され、同時に「ファンタジア号」という愛称が正式に設定されました。運行開始当初は法令上の制限から乗務員2名体制でしたが、同年5月には規制緩和により、日本で初めてとなるダブルデッカー車両のワンマン運行が認可されました。これは、その後の夜行高速バスにおけるダブルデッカー車両の普及に大きな影響を与えることになります。
ファンタジア号としてダブルデッカーを導入した直後は、一時的に乗客数が増加し、車両の増備も行われました。しかし、やはり京葉線の開業がもたらした影響は大きく、本路線の利用客数はその後大幅に減少しました。1991年には東北・上越新幹線が東京駅へ乗り入れましたが、それ以降、両路線に対して積極的な利用促進策が打ち出されることはありませんでした。
結局、ファンタジア号（東京湾岸線）と上野湾岸線は、それぞれ1995年6月30日と同年5月7日限りで運行を終了し、廃止となりました。しかし、国鉄バス時代からJRバスへと引き継がれた歴史の中で、国内のバス事業者として初めてハイデッカーを導入した路線であり、また日本で初めてダブルデッカーのワンマン運行を実現するなど、日本のバス車両や運行形態の歴史において特筆すべき功績を残した路線でした。
なお、これらの路線免許は廃止後も残され、現在運行されている夜行高速バス「ドリーム号」の一部便が東京ディズニーランドに乗り入れる際に活用されています。
運行会社
東京湾岸線：国鉄バス → JR東日本 → JRバス関東、東京空港交通
上野湾岸線：国鉄バス → JR東日本 → JRバス関東、京成電鉄
ピーク時の運行回数（1989年頃）
東京駅 - TDL間：1日62往復
上野駅 - TDL間：1日45往復
京葉線開通後の運行回数（1990年以降）
東京駅 - TDL間：1日20往復 → のち14往復に減便
上野駅 - TDL間：1日24往復 → のち12往復に減便
主な使用車両
開業当初の東京湾岸線および上野湾岸線ではハイデッカー車両が主力として使用され、多客期には他営業所からの応援車両も投入されました。
1990年にファンタジア号となってからは、特別な愛称名にふさわしいダブルデッカーのネオプラン・スカイライナーが専用車両となりました。この車両は大阪府の観光バス事業者から中古で購入されたもので、外装にはアーティストの久里洋二氏によるイラストが描かれていました。車両故障時や増発便では、引き続きハイデッカー車両が使用されました。
現在は、形を変えてJRバス関東と京成バスなどが東京ディズニーリゾートと都心・郊外を結ぶバス路線を運行しています（新宿駅、新浦安駅など）。特に、2017年10月からはJRバス関東が東京駅〜新浦安ルートの一部でTDLを経由する便の運行に加わり、直接的ではないものの、JRバスによる東京駅～TDL間のバス運行が復活したことになります。
1983年7月1日 - 東京湾岸線 運行開始
1985年12月20日 - 上野湾岸線 運行開始
1990年3月10日 - 東京湾岸線にダブルデッカー投入、愛称を「ファンタジア号」と設定
1992年2月 - 上野湾岸線 減便
1994年8月 - 東京湾岸線 減便
1995年5月7日 - 上野湾岸線 運行廃止
* 1995年6月30日 - 東京湾岸線（ファンタジア号） 運行廃止
路線の誕生とその役割
ファンタジア号が誕生したのは、東京ディズニーランドが開園した1983年のことです。全国各地から鉄道を利用してTDLを訪れる観光客を、東京駅からスムーズにパークまで送り届けることを目的として開設されました。これは、当時の国鉄バスが掲げていた「鉄道線を補完・培養する」という原則に沿ったものでした。
開業にあたり、国鉄バスにとって初めてとなるハイデッカー車両（三菱K-MS613SA、のちP-MS715S型）が導入されました。同時に、これまでの国鉄バスとは異なる新しい車体カラーリングがお披露目されました。このデザインは、その後のJRバス各社にも引き継がれることになります。また、このハイデッカー導入は、1984年に国鉄専用型式の車両がハイデッカー化されるきっかけの一つともなりました。
1985年には、東北・上越新幹線が上野駅を起点とするようになったことを受け、上野駅とTDLを結ぶ上野湾岸線が開設されました。こちらの路線は、京成電鉄との共同運行となりました。当時のTDLは、鉄道駅からのアクセスが必ずしも便利ではなかったため、これら2つのバス路線は年間を通して多くの利用客があり、1987年の国鉄分割民営化を控えた時期には、国鉄バスの中でも特に収益性の高い路線のひとつとされていました。
京葉線開業と路線の転換
しかし、TDLの目の前には既に京葉線の舞浜駅が建設される計画が進んでおり、1990年3月に京葉線が東京駅まで延伸されることが決定しました。これにより、多くの利用客が鉄道へと流れることが避けられない状況となります。理由は明白でした。バスの場合、東京駅からTDLまで35分から長い時で60分程度かかったのに対し、京葉線なら東京駅から舞浜駅までわずか17分で到着します。東京駅での新幹線ホームと京葉線ホームの距離が400メートル離れていても、バスの待ち時間を考慮すれば乗換時間はさほど変わらないと予測されました。さらに、運賃も当時のバス運賃600円に対して鉄道は210円と大幅に安く、鉄道との連絡乗車券を利用すればさらに割安になったからです。
こうした状況に対応するため、東京湾岸線には新たな魅力を加えることで、利用客の減少を食い止めようという方策が講じられました。その一つが、ダブルデッカー車両の投入でした。
ファンタジア号として新たなスタート、そして終焉
1990年3月10日、東京湾岸線には特別な塗装が施されたダブルデッカー車両が導入され、同時に「ファンタジア号」という愛称が正式に設定されました。運行開始当初は法令上の制限から乗務員2名体制でしたが、同年5月には規制緩和により、日本で初めてとなるダブルデッカー車両のワンマン運行が認可されました。これは、その後の夜行高速バスにおけるダブルデッカー車両の普及に大きな影響を与えることになります。
ファンタジア号としてダブルデッカーを導入した直後は、一時的に乗客数が増加し、車両の増備も行われました。しかし、やはり京葉線の開業がもたらした影響は大きく、本路線の利用客数はその後大幅に減少しました。1991年には東北・上越新幹線が東京駅へ乗り入れましたが、それ以降、両路線に対して積極的な利用促進策が打ち出されることはありませんでした。
結局、ファンタジア号（東京湾岸線）と上野湾岸線は、それぞれ1995年6月30日と同年5月7日限りで運行を終了し、廃止となりました。しかし、国鉄バス時代からJRバスへと引き継がれた歴史の中で、国内のバス事業者として初めてハイデッカーを導入した路線であり、また日本で初めてダブルデッカーのワンマン運行を実現するなど、日本のバス車両や運行形態の歴史において特筆すべき功績を残した路線でした。
なお、これらの路線免許は廃止後も残され、現在運行されている夜行高速バス「ドリーム号」の一部便が東京ディズニーランドに乗り入れる際に活用されています。
運行情報と使用車両
運行会社
東京湾岸線：国鉄バス → JR東日本 → JRバス関東、東京空港交通
上野湾岸線：国鉄バス → JR東日本 → JRバス関東、京成電鉄
ピーク時の運行回数（1989年頃）
東京駅 - TDL間：1日62往復
上野駅 - TDL間：1日45往復
京葉線開通後の運行回数（1990年以降）
東京駅 - TDL間：1日20往復 → のち14往復に減便
上野駅 - TDL間：1日24往復 → のち12往復に減便
主な使用車両
開業当初の東京湾岸線および上野湾岸線ではハイデッカー車両が主力として使用され、多客期には他営業所からの応援車両も投入されました。
1990年にファンタジア号となってからは、特別な愛称名にふさわしいダブルデッカーのネオプラン・スカイライナーが専用車両となりました。この車両は大阪府の観光バス事業者から中古で購入されたもので、外装にはアーティストの久里洋二氏によるイラストが描かれていました。車両故障時や増発便では、引き続きハイデッカー車両が使用されました。
現在は、形を変えてJRバス関東と京成バスなどが東京ディズニーリゾートと都心・郊外を結ぶバス路線を運行しています（新宿駅、新浦安駅など）。特に、2017年10月からはJRバス関東が東京駅〜新浦安ルートの一部でTDLを経由する便の運行に加わり、直接的ではないものの、JRバスによる東京駅～TDL間のバス運行が復活したことになります。
歴史年表
1983年7月1日 - 東京湾岸線 運行開始
1985年12月20日 - 上野湾岸線 運行開始
1990年3月10日 - 東京湾岸線にダブルデッカー投入、愛称を「ファンタジア号」と設定
1992年2月 - 上野湾岸線 減便
1994年8月 - 東京湾岸線 減便
1995年5月7日 - 上野湾岸線 運行廃止
* 1995年6月30日 - 東京湾岸線（ファンタジア号） 運行廃止
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