ファーレンハイト (アルバム)

アルバム『ファーレンハイト』

TOTOが1986年に世に送り出した通算6枚目のスタジオ・アルバム、『ファーレンハイト』（Fahrenheit）は、バンドのキャリアにおいて重要な転換点を示す作品として位置づけられています。

このアルバムにおける最も大きな変化は、リード・ヴォーカルの交代でした。それまでバンドのフロントマンの一人であったファーギー・フレデリクセンに代わり、新たにジョセフ・ウィリアムズが迎え入れられました。彼の明瞭かつパワフルなヴォーカルは、それまでのTOTOのサウンドに新鮮な彩りを与え、新たな可能性を示唆しています。

本作のもう一つの顕著な特徴は、過去の作品と比較して圧倒的に多数の著名なゲスト・ミュージシャンがレコーディングに参加していることです。ジャズ界の巨匠マイルス・デイヴィスがトランペットで参加したのをはじめ、アメリカン・ロックを代表するヴォーカリストであるドン・ヘンリーやマイケル・マクドナルドがコーラスで参加。また、フュージョン/スムーズジャズ界で活躍するサックス奏者デイヴィッド・サンボーンも参加するなど、ジャンルを超えた非常に豪華な顔ぶれが揃いました。

これらの多彩なゲスト陣の参加は、TOTOの持ち味である高度な演奏技術とジャンルレスな音楽性に、さらなる奥行きと多様性をもたらしています。彼らの貢献は、アルバム全体のサウンドに豊かなテクスチャーを加えていると言えるでしょう。

アルバムの根幹を支えるのは、バンドの黄金期を築いたメンバーたちです。ギターと時にリード・ヴォーカルも担当するスティーヴ・ルカサー、卓越したキーボード・ワークとヴォーカルでバンドの音楽性の要となるデヴィッド・ペイチ、堅実かつ独創的なドラミングで知られるジェフ・ポーカロ、そしてベースでボトムを支えるマイク・ポーカロといった不動の布陣に加え、新加入のジョセフ・ウィリアムズがメイン・ヴォーカルを務めました。また、当時メンバーであったスティーヴ・ポーカロもキーボードとヴォーカルで参加しています。

さらに、リズムセクションを補強するゲストとして、ジェフ・ポーカロの父であるジョー・ポーカロ、レニー・カストロ、ジム・ケルトナー、スティーヴ・ジョーダンといった名うてのパーカッショニストたちが名を連ね、グルーヴに彩りを添えています。

『ファーレンハイト』からは、その多様な音楽性を反映するように複数の楽曲がシングルカットされました。「I'll Be Over You」、「Without Your Love」、「Till the End」、「Lea」などがシングルとしてリリースされ、アルバムのプロモーションに貢献しました。

この『ファーレンハイト』は、メンバー構成においても節目となる作品となりました。本作の発表後、キーボードを担当していたスティーヴ・ポーカロがバンドを脱退したのです。スティーヴ・ポーカロは、バンドの初期からのサウンド形成に貢献してきた重要なメンバーであり、彼の脱退はTOTOにとって大きな変化を意味しました。

『ファーレンハイト』は、リード・ヴォーカリストの交代、豪華なゲストとの共演、そして長年の盟友であったメンバーの脱退という、バンドにとって大きな変化が同時期に訪れた作品です。このアルバムは、成熟期を迎えたTOTOが新たなサウンドの可能性を模索しつつ、メンバー間のダイナミクスが変化していく過程を捉えた、バンドの歴史において見過ごすことのできない重要な一枚と言えるでしょう。

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