フアン・ゴイティソーロ

フアン・ゴイティソーロ：亡命と文学、そして社会への批判

フアン・ゴイティソーロ（Juan Goytisolo Gay, 1931年1月6日 - 2017年6月4日）は、スペイン・バルセロナ出身の小説家です。彼は、フランコ体制下のスペインを離れ、パリでの亡命生活を経て、晩年はモロッコのマラケシュで過ごしました。彼の作品は、スペインの歴史や社会、そして自身のアイデンティティに対する深い考察を特徴とし、戦後スペイン文学を代表する作家の一人として知られています。

生い立ちと亡命

ゴイティソーロは、裕福な砂糖農園経営者の家庭に生まれましたが、幼少期に父親、そして7歳の時に母親を空爆で亡くしました。この母親の死は、彼の人生と文学活動に大きな影響を与え、後の政治的活動の原点となりました。バルセロナ大学で法学を学んだ後、外交官を目指しますが挫折。1953年に小説家としてデビューします。

1956年、兵役を終えたゴイティソーロはパリへ亡命します。フランコ体制下のスペインでは、自由な表現が制限されていたため、パリは彼にとって創作活動を続けるための重要な場所でした。彼は、パリとモロッコのマラケシュを拠点に、世界各地を訪れ、小説だけでなく、評論やルポルタージュも執筆しました。

文学活動と作品

ゴイティソーロの作品は、実験的な文体と、スペイン社会への批判精神が特徴です。初期の作品『天国の悲しみ』では、戦争の悲惨さを描きましたが、亡命後の作品では、より政治的、社会的なテーマを扱うようになります。1966年の『身元証明』、1970年の『ドン・フリアン伯爵の復権』、1975年の『根なしのフアン』の三部作は、フランコ政権のイデオロギーを批判的に描いた代表作です。

また、彼は古典文学やイスラム文化にも深く精通しており、これらの知識が彼の作品に影響を与えています。内戦下のサラエヴォを訪れた経験を基にしたルポルタージュ『サラエヴォ・ノート』では、戦争の悲惨さやヨーロッパの無関心を批判し、大きな反響を呼びました。ジャン＝ポール・サルトルやアルベール・カミュら実存主義の作家たちからの影響も受けており、彼らの政治参加の意識を継承しています。

人物と晩年

ゴイティソーロは、1956年からフランス出身の出版者モニーク・ラングと同棲していましたが、彼女の死後、1997年にマラケシュに移住します。兄のホセ・アグスティン・ゴイティソーロは詩人、弟のルイス・ゴイティソーロも作家という文学一家でした。

晩年は腰を骨折し、車いすでの生活を送っていましたが、執筆活動は続けました。2017年6月4日、86歳で亡くなりましたが、その文学的遺産は今もなお、多くの読者に影響を与え続けています。

受賞歴

ゴイティソーロは、数々の文学賞を受賞しており、その業績は国際的に高く評価されています。

1985年 ユーロパリア文学賞
1993年 ネリー・ザックス賞
2002年 オクタビオ・パス賞
2004年 FIL賞
2008年 スペイン国民文学賞
2010年 ドン・キホーテ賞
2012年 フォルマントール賞
2014年 セルバンテス賞

日本語訳

彼の作品は、日本語にも翻訳されており、日本の読者もその文学に触れることができます。

『サラエヴォ・ノート』(山道佳子訳、みすず書房、1994年)
『戦いの後の光景』(旦敬介訳、みすず書房、1996年)
『パレスチナ日記』(山道佳子訳、みすず書房、1997年)
『嵐の中のアルジェリア』(山道佳子訳、みすず書房、1999年)
『スペインとスペイン人 〈スペイン神話〉の解体』(本田誠二訳、水声社、2016年)

主要作品

『天国の悲しみ』（1956年）
『アイデンティティの証明』（1966年）
『ドン・フリアン伯爵の復権』（1970年）
『根無しのフアン』（1975年）
『マクバラ』（1980年）
『禁猟区』（1980年）
『戦いのあとの光景』（1982年）
* 『マルクス家のサーガ』（1993年）

ゴイティソーロは、その生涯を通じて、社会の不条理や矛盾を告発し続けました。彼の文学は、今もなお、私たちに多くの問いを投げかけ、深く考えさせる力を持っています。

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