フィッシャーの原理

フィッシャーの原理

フィッシャーの原理とは、多くの生物において性別比がほぼ1対1となる理由を説明するもので、1930年にロナルド・フィッシャーが提唱しました。この理論は進化生物学における重要な概念の一つであり、血縁選択説と並んで進化のメカニズムを理解するために不可欠です。

概要

ウィリアム・ドナルド・ハミルトンは、フィッシャーの原理をさらに発展させて説明しました。親が育てるコストがオスでもメスでも等しいと仮定した場合、もしオスがメスよりも少数で生まれる集団があるとします。この場合、新たに生まれたオスは多くのメスと交配し、結果的により多くの子孫を残すことができます。このようにして、オスの方を多く産む親が遺伝的に有利になり、集団内でオスの割合が徐々に増加することが示されます。

性比が1：1に近づくほど、オスを多く産むメリットは次第に薄れていきます。この原理は、一夫一妻制と一夫多妻制のどちらにおいても成り立ち、最終的には性比が均衡に達することが認められています。つまり、1対1の性比は進化的に安定した戦略であると言えます。このメカニズムは、集団内で自由に交配が行われることを前提として成立します。

親の出費

フィッシャーは、子を育てるためにかかるコストを「親の出費」と呼びました。進化の観点からは、性比が1対1になるという状態よりも、オスとメスの子への親の出費の比が1対1に揃うことが重要であると明らかにしたのです。数式で表すと、オスを作るコスト（Cm）とその子の数（M）は、メスを作るコスト（Cf）とその子の数（F）に対して次のように等しくなります。


C_m × M = C_f × F


ここで、Cmはオスの育成にかかるコスト、Mはオスの子供の数、Cfはメスの育成にかかるコスト、Fはメスの子供の数を示しています。この数式により、特定の環境下ではオスを育てるコストがメスよりも高ければ、オスの数が減少することが予測可能です。多くの生物でこの理論は当てはまることが確認されています。特にロバート・トリヴァーズによってこの概念は洗練され、生態学において重要な理論とされています。

議論の拡張

フィッシャーの原理は、種保存や群選択理論が盛んだった時期に、個体選択の重要性を示す貴重な例となりました。特に、一夫多妻の動物種においては、なぜ独身のオスが多くを占めるのかを説明するのに役立ちます。フィッシャー自身は、二世代だけでなく三世代にわたり適応度を含めて計算することで例を広げ、理論の強固さを加えました。フィッシャーの原理は後に集団遺伝学者によって数学的に表現され、進化ゲーム理論の基盤ともなりました。

学説の歴史

フィッシャーの原理についての研究は、フィッシャーが初めてではありません。この理論はチャールズ・ダーウィンの著作にも見られ、性比が自然選択によって均衡するという考えが早くから提唱されていましたが、理論としては未発達のものでした。フィッシャーはダーウィンの議論を引用し、カール・デュージングも関連する論文を発表しています。

関連書籍

フィッシャーの原理は多くの一般向け科学書で紹介されており、その簡潔さと理解しやすさから広く親しまれています。特にリチャード・ドーキンスの『祖先の物語』や、長谷川真理子の『雄と雌の数をめぐる不思議』は、フィッシャーの原理について深い洞察を与えてくれる優れた作品です。

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