フィリップ・ソレルス

フィリップ・ソレルス（Philippe Sollers, 1936年11月28日 - 2023年5月5日）は、フランスを代表する作家、批評家、映像作家として、その生涯を通じて文学、思想、政治の分野で多岐にわたる影響を与えました。彼の作品は、実験的な作風と広範なテーマによって特徴づけられ、20世紀後半のフランス文学を語る上で欠かせない存在です。

1957年、小説『挑戦』でデビューしたソレルスは、初期には伝統的な心理小説の手法を用いていましたが、1960年代に入ると、雑誌「テル・ケル」の創刊を機に、文学的実験の道を歩み始めます。ジャン・ケロールらの支援を受け創刊された「テル・ケル」は、「言語と生の刷新」を掲げ、様々な思想家や文学者の理論的発表の場となりました。同時に、ソレルス自身の文学観や政治的立場を表明する重要なプラットフォームとしても機能しました。

ヌーヴォー・ロマンへの関心から、ソレルスは従来の小説手法から脱却し、多面的な実験性を追求した小説『公園』でメディシス賞を受賞しました。この時期から、ソレルスの作品はポスト構造主義との親和性を深め、クリステヴァらの思想と並行しながら、前衛的な作品を次々と発表していきます。特に1970年代後半に書かれた『楽園』では、句読点のない文体によるエクリチュールの実験が試みられ、言語表現の新たな可能性を追求しました。

ソレルスは文学活動と並行して、政治的な活動にも積極的に参加しました。当初は共産主義に傾倒していましたが、その後マオイズムを経て、アメリカ型の脱中心主義的連邦制へと政治的立場を大きく転換させました。彼の思想遍歴は、彼の作品にも影響を与え、多様な解釈を可能にする複雑な要素となっています。

1982年に「テル・ケル」が廃刊となった後、ソレルスの小説は伝統的な手法に戻りますが、小説の可能性を追求する姿勢は一貫していました。彼の作風は、伝統的手法の時代と前衛的手法の時代に大きく分けられますが、それぞれの時期においても、物語の解体、文法規範からの逸脱、エクリチュールの実験といった共通の志向が見られます。また、手法に関わらず、広範かつ多彩なテーマを小説に盛り込もうとする姿勢も、ソレルスの作品の特徴と言えるでしょう。代表作には、『楽園』『女たち』『遊び人の肖像』などがあります。

2023年5月5日、パリで86歳で死去。その生涯を通じて、文学、思想、政治の分野で多大な貢献をしました。

主な著書には、小説では『挑戦』、『公園』、『女たち』、『遊び人の肖像』など、評論では『例外の理論』、『サド侯爵の幻の手紙』など、美術評論では『セザンヌの楽園』、『ピカソ、ザ・ヒーロー』など、伝記では『ルーヴルの騎手』、『神秘のモーツァルト』など、対談集では『物が私語するとき』、『ニューヨークの啓示』などがあります。これらの作品を通じて、ソレルスは文学の可能性を押し広げ、後世の作家や思想家に大きな影響を与え続けました。彼の遺産は、21世紀の今もなお、私たちに多くの問いと刺激を与えてくれます。

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