ヌーヴォー・ロマン

ヌーヴォー・ロマンとは

ヌーヴォー・ロマン（Nouveau roman）は、フランス語で「新しい小説」を意味し、第二次世界大戦後のフランスで生まれた前衛的な小説作品群を指す言葉です。アンチ・ロマン（Anti Roman）、すなわち「反小説」とも呼ばれることがあります。この名称は、1957年5月22日にル・モンド紙に掲載されたエミール・アンリオの評論で初めて使用されました。

ヌーヴォー・ロマンの特徴

ヌーヴォー・ロマンは、特定の組織や運動があったわけではなく、従来の近代小説の形式に反発した作家たちの作品を総称するジャーナリスティックな呼称です。しかし、1963年にはアラン・ロブ＝グリエによって『新しい小説のために』という論集が出版され、ヌーヴォー・ロマンの理論的な側面が示されました。

代表的な作家には、アラン・ロブ＝グリエ、クロード・シモン、ナタリー・サロート、ミシェル・ビュトールなどがいます。また、サミュエル・ベケットやマルグリット・デュラスも、広義にはヌーヴォー・ロマンの作家として含まれることがあります。これらの作家の多くが深夜叢書（ミニュイ社）から作品を刊行していることは、単なる偶然ではありません。

ヌーヴォー・ロマンの大きな特徴は、作者の世界観を読者に押し付けるのではなく、プロットの一貫性や心理描写を意図的に排除した点にあります。これは、一種の実験的な小説であり、言語の可能性を追求する試みと言えます。例えば、ナタリー・サロートの「意識の流れの叙述」、ミシェル・ビュトールの「二人称小説」、ロブ＝グリエの「客観的な事物描写の徹底」といった様々な技法が用いられています。これらの作品において、読者は与えられた「テクスト」を自ら解釈し、物語や主題を構築する必要があります。この点において、従来の小説とは大きく異なります。

ヌーヴォー・ロマンの展開と影響

ヌーヴォー・ロマンは、サルトルやバルトなどの思想家によって擁護された側面もありました。1960年代後半以降は、フィリップ・ソレルスを中心とするテル・ケル派によって、ヌーヴォー・ロマンの動向が批判的に発展させられました。テル・ケル派は、文学理論雑誌『Tel Quel』を基軸に活動していましたが、1970年代に入ると、ソレルスがマオイズムに傾倒したことで政治的な色彩を強め、文学活動としての側面は薄れていきました。

しかし、ヌーヴォー・ロマンは元々党派性が薄く、個々の作家の作品は、モダニズムを積極的に受け入れることで小説というジャンルの進歩を目指していました。そのため、テル・ケル派以降は、作家たちは各自の方法論をさらに深化させ、商業主義とは対立しながらも、小説的な言語によってしか到達できない深い思想領域を開拓していきました。

ヌーヴォー・ロマンの意義

ヌーヴォー・ロマンは、従来の小説の概念を大きく変えた文学運動であり、文学史における重要な転換点となりました。その実験的な手法は、後の文学作品に大きな影響を与え、現代文学の多様性を生み出す原動力の一つとなりました。読者自身が物語を構築するという斬新な試みは、文学の可能性を広げたと言えるでしょう。

関連文献

Bernard Luscans, La représentation dans le nouveau nouveau roman, Chapel Hill, Université de Caroline du Nord, 2008.
Joseph Pivato, 'Nouveau Roman Canadien', Canadian Literature 58 (Autumn 1973) 51-60.

関連項目

アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である。
マジックリアリズム
47年グループ
ポストモダン文学 - アヴァン・ポップ
スリップストリーム (文学)
ロシア・フォルマリズム - ターボ・リアリズム
ビート・ジェネレーション
不条理演劇
ウリポ
ネオレアリズモ
ダダイスム
レトリスム

もう一度検索