フィリップ・フォン・ヘッセン＝ダルムシュタット

フィリップ・フォン・ヘッセン＝ダルムシュタット（ドイツ語: Philipp von Hessen-Darmstadt、1671年 7月20日 - 1736年 8月11日）は、ドイツのヘッセン＝ダルムシュタット方伯家の一員で、神聖ローマ帝国に仕えた軍人、行政官です。ダルムシュタットで生まれ、ウィーンで没しました。

生涯

フィリップは、ヘッセン＝ダルムシュタット方伯ルートヴィヒ6世とその二番目の妻にあたるエリーザベト・ドロテア・フォン・ザクセン＝ゴータ＝アルテンブルクの間に生まれた三男です。当時のドイツ諸侯の子弟と同様、彼もまた神聖ローマ帝国への奉仕をそのキャリアの中心に据えました。

彼は軍人として頭角を現し、ヨーロッパの勢力図を大きく塗り替えたスペイン継承戦争（1701年-1714年）では、ハプスブルク家を盟主とする神聖ローマ帝国側の指揮官として各地を転戦しました。特にイタリア戦線で活躍し、1708年に帝国軍がナポリ王国を制圧すると、その占領地における神聖ローマ帝国軍の元帥という要職に任命されました。この時期、彼は軍務の傍ら、後述するように音楽家たちのパトロンとしても活動しています。

戦後、1714年には、名将として知られるオイゲン・フォン・ザヴォイエン公の影響力もあり、かつて独立した公国であったマントヴァとその周辺地域を統治する総督に任じられました。彼はこのマントヴァ総督の地位に、1736年に亡くなるまで長きにわたって留まりました。軍務に加え、占領下の重要地域の行政を担うという、重責を果たすことになります。

音楽への愛好

フィリップは音楽芸術に対して深い理解と愛情を持っていました。特にナポリ滞在中には、当時新進気鋭の作曲家であったニコラ・ポルポラを支援しました。また、マントヴァ総督に就任してからは、イタリア音楽史を代表する作曲家アントニオ・ヴィヴァルディを宮廷の合唱団（楽団）の団長（楽長）に任命し、手厚く保護しました。ヴィヴァルディは、フィリップの結婚を祝うためにオペラ『ティト・マンリオ』を作曲し、彼に献呈しています。このように、彼は単なる権力者としてだけでなく、文化的なるいの庇護者としても名を残しました。

家族と信仰

フィリップは1693年3月24日、ブリュッセルにて、クロイ＝アーヴル公フェルディナン・フランソワ・ジョゼフの娘であるマリー＝テレーズ・ド・クロイと結婚しました。この婚姻は、彼の信仰にも大きな変化をもたらしました。それまでプロテスタントであった彼は、妻マリー＝テレーズとの結婚を機に、母エリーザベト・ドロテアの強い反対を押し切って、カトリックへと改宗しました。当時の神聖ローマ帝国では宗教的な対立が根強く残っており、諸侯によるカトリックへの改宗はしばしば政治的な意味合いも持ちましたが、彼のケースは結婚が直接的な契機となったようです。

マリー＝テレーズとの間には、以下の5人の子女をもうけました。

ヨーゼフ（1699年 - 1768年）: 後にアウクスブルクの司教となりました。
ヴィルヘルム・ルートヴィヒ（1704年 - ?）: 幼くして亡くなりました。
テーオドラ（1706年2月6日 - 1784年1月23日）: 1727年にグアスタッラ公アントニオ・フェランテ・ゴンザーガと結婚しましたが、子供はいませんでした。
レオポルト（1708年 - 1764年）: 父と同じく帝国元帥となりました。1740年にモデナ出身のエンリケッタ・デステと結婚しましたが、こちらも子供はいませんでした。
* カール（1710年）: 夭折しました。

フィリップはその後もマントヴァ総督としてその任務を続け、1736年にウィーンでその生涯を閉じました。彼は軍人、行政官、そして文化的なパトロンとして、18世紀初頭のヨーロッパ史の一角に足跡を残しました。

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