フィレンツェ歴史地区

フィレンツェ歴史地区：ルネサンスの息吹が今も残る街

フィレンツェ歴史地区は、イタリア共和国トスカーナ州フィレンツェの中心部に位置し、ユネスコの世界遺産（文化遺産）に登録されているエリアです。古くからの街並みが広範囲に渡って保存され、ルネサンス期を代表する芸術と文化が凝縮された、まさに「屋根のない博物館」と言える場所と言えるでしょう。

フィレンツェの隆盛：メディチ家の貢献

フィレンツェは、エトルリア人によって築かれた都市に端を発し、ローマ帝国の植民都市としても栄えました。その後、神聖ローマ帝国の支配下に入った時期もありましたが、12世紀には事実上、自治都市として独立しました。織物業や金融業が発展し、近郊からの農産物の集散地として繁栄を極めました。

フィレンツェの歴史において、メディチ家は欠かせない存在です。14世紀、人口12万人を超える大都市となったフィレンツェで、ジョヴァンニ・ディ・ビッチが築いた銀行業を継いだコジモ・デ・メディチ（コジモ・イル・ヴェッキオ）は、政治的権力を掌握し、芸術と学問の振興に力を注ぎました。多くの芸術家を支援し、プラトン研究のアカデミーや公共図書館を設立するなど、彼の功績は大きく、「祖国の父」と称えられました。

コジモの孫、ロレンツォ・デ・メディチは、優れた政治手腕と詩人としての才能を持ち合わせていました。芸術家たちと親交を深め、芸術と学問を保護したことで、ルネサンスは彼の時代に最盛期を迎えました。現在でも、メディチ家の紋章である6つの球をあしらったデザインを街中で見ることができます。その後、サヴォナローラの独裁など、様々な政争を経て、16世紀にフィレンツェはトスカーナ大公国となりました。

歴史的建造物：中世からルネサンスの遺産

13世紀から16世紀にかけてのフィレンツェの繁栄の中で建設された歴史的建造物は、現在も大切に保存され、フィレンツェ歴史地区を形成しています。

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂は、フィレンツェのシンボル的存在。ゴシック様式と初期ルネサンス様式が融合した建築様式と、世界最大級の石造ドームが特徴です。

ヴェッキオ宮殿は14世紀に建設されたフィレンツェの政庁舎で、メディチ家も居住していました。現在は市庁舎として使用されており、ミケランジェロとダ・ヴィンチが壁画を競作したという伝説（現存する壁画はヴァザーリ作）で有名です。宮殿前のシニョリーア広場は、中世フィレンツェの政治の中心地でした。

ウフィツィ美術館は、ヨーロッパ最古の近代美術館の一つ。元々はフィレンツェ共和国の政庁舎でしたが、メディチ家の美術コレクションを収蔵する空間として改修されました。ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』や『春』など、ルネサンス絵画の傑作を所蔵しています。

ピッティ宮殿は、アルノ川南岸に位置する壮麗な宮殿。メディチ家が居住し、トスカーナ大公の居館となりました。現在は美術館や博物館として公開されています。

ボーボリ庭園は、ピッティ宮殿の背後に広がる広大な庭園です。

サンタ・マリア・ノヴェッラ教会は、ゴシック様式と初期ルネサンス様式のフレスコ画が美しい教会。ダ・ヴィンチが『モナリザ』を描いた場所としても知られています。

サンタ・クローチェ聖堂は、ミケランジェロやガリレオ、ロッシーニなど、多くの著名人の墓があるゴシック様式の聖堂です。

これらの建造物は、フィレンツェの豊かな歴史と文化を物語る重要な遺産であり、フィレンツェ歴史地区全体が世界遺産に登録された理由となっています。

世界遺産登録基準

フィレンツェ歴史地区は、以下の世界遺産登録基準を満たしているとして登録されました。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの

もう一度検索