フウトウカズラ

フウトウカズラ（風藤葛）

フウトウカズラ（[学名]]：Piper kadsura）は、コショウ科コショウ属に分類される、一年中葉をつけるつる性の木本植物です。日本の本州南部から南西諸島にかけて、また台湾や朝鮮半島南部など東アジアの温暖な地域に自生しています。主に海岸に近い森林の内部や林の縁でよく見かけられます。コショウ]と同じ仲間ですが、[[果実に辛味はなく、食用には適しません。一方で、古くから薬用として用いられてきた歴史があります。

特徴

この植物は常緑性のつる植物で、大きく生長すると長さが10メートルを超えることもあります。茎や葉を含む全体に独特の香りがあります。茎の節からは空中に根（不定根）が出て、樹木や岩などの基盤にしっかりと張り付いて上へと這い上がります。ただし、先端の枝はしばしば基盤から離れて垂れ下がる姿も見られます。

形態

葉

葉は茎に互い違いにつきます。長さ1〜4センチメートルの葉柄を持ち、その基部は茎を包むように鞘状になっています。葉の本体である葉身は、卵形からやや細長い卵形をしており、長さは5〜12センチメートルです。葉の縁にギザギザはなく滑らか（全縁）で、基部はハート形（心形）、先端は鋭く尖っています。若い株に見られる葉は、より丸みを帯びている傾向があります。葉は厚みがあり、濃い緑色をしています。葉の表面には小さな腺点があり、裏面の葉脈沿いには細かい毛が生えていますが、古い葉では毛がなくなっていきます。葉脈は特徴的で、基部で3本に分かれた後、中央の脈からさらに2本の脈が枝分かれすることで、合計5本の目立つ葉脈が形成されます。葉の表面では、これらの葉脈に沿ってわずかにへこんでいます。

花

フウトウカズラは雄花と雌花が別の株につく雌雄異株の植物です。日本ではおよそ4月から6月にかけて花を咲かせます。雄花も雌花も、非常に小さな花が穂状に密に集まった花序を形成します。これらの花序は、葉のつく位置と向かい合うように生じ、柄を持って垂れ下がります。個々の花は花びらや萼（花被）を持たず、幅約1ミリメートルの盾状の苞に包まれ、太い花序の軸にやや埋まるように配置されます。雄花序は長さ3〜12センチメートル、直径は約2.5ミリメートルで、柄の長さは0.6〜1.5センチメートルです。雄花には2〜3個の短い雄しべがあります。雌花序は葉身よりも短く、柄は葉柄と同じくらいの長さです。雌花は1個の雌しべを持ち、子房は球形、柱頭は線形で3〜4つに裂けています。子房の基部の周りには、退化した雄しべの痕跡が見られます。

果実

果実は多汁質の液果で、球形、直径は3〜4ミリメートル程度です。日本では11月から3月にかけて、橙赤色から鮮やかな赤色に熟します。果実がたくさんついた雌花序は、大きなものだと長さ17センチメートル、直径1.5センチメートルほどにもなります。果実の中に含まれる種子は球形で、直径は約2.5ミリメートルです。

分布と生態

本州の関東地方以西、四国、九州、南西諸島に加え、台湾、朝鮮半島南部、伊豆諸島、小笠原諸島に分布しています。中国南部からの報告もありますが、これは別の種である可能性が指摘されています。日本では、主に海岸沿いの森林の内部やその縁に生育します。不定根を使って岩や樹木の幹にしっかりと絡みつき、時にはそれらを一面に覆い尽くすほどになります。奄美諸島での調査では、人家の生け垣にもしばしば出現し、特に海岸に近い低地の隆起珊瑚礁地域に多く見られることが分かっています。この地域では、ハマイヌビワやガジュマルの下生えとしても見られ、特定の植物群集の一部を構成しています。

人間との関わり

フウトウカズラは、その葉や果実がコショウに似ているにもかかわらず、辛味がないため香辛料としては利用されません。しかし、古くから薬草として人々の暮らしに関わってきました。特に九州南部や南西諸島では、葉や茎を浴槽に入れて薬湯として用いる習慣があり、神経痛や打撲、骨折などに効き目があるとされてきました。この薬湯には、セキショウやアコウといった他の植物を一緒に加えることもあったようです。また、毒蛇に噛まれた傷の手当や、腰痛、胃の不調（健胃）にも効果があると伝えられています。冬場の飼料が不足した際には、家畜にフウトウカズラが与えられたこともあります。中国では、茎を乾燥させたものが「海風藤（かいふうとう）」と呼ばれ、これを煎じたものが風邪や関節の痛みの薬として利用されています。

分類上の位置づけと近縁種

フウトウカズラとされる植物の中には、中国南東部（浙江省、福建省）から報告されているものがあり、これらは葉の裏面全体に毛が生えている点や、花序の柄が長い点などから、おそらくフウトウカズラとは異なる別の種（Piper wallichii）であると考えられています。コショウ属は世界中の熱帯地域を中心に多くの種が分布していますが、日本国内にはフウトウカズラの他に、小笠原諸島にタイヨウフウトウカズラ（Piper postersianum）が自生しています。タイヨウフウトウカズラは、フウトウカズラと比べて直立性の低い木（半低木）であること、葉が卵円形で15〜20センチメートルと大型であること、そして花序が葉の付け根（葉腋）から生じる点で明確に区別できます。また、沖縄などの琉球列島では、香辛料として利用されるヒハツモドキ（Piper retrofractum）が栽培されており、それが野生化したものも見られます。ヒハツモドキはフウトウカズラにやや似ていますが、葉がより薄く光沢があること、葉の裏に毛がないこと、葉脈がフウトウカズラのような5行脈ではないこと、そして雌花序が円錐形で上向きに伸びる点で識別可能です。

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