フェイスリフト (車両チューニング)

フェイスリフト (自動車改造)

「フェイスリフト（facelift）」という言葉は、もともと美容整形の分野で用いられる語ですが、自動車業界においては主に二つの異なる文脈で使われます。一つは自動車メーカーがモデルの販売期間中に実施するマイナーチェンジで、主にフロント部分を中心にデザインを変更することを指します。GDB型インプレッサの丸目から涙目への変更や、S14型シルビアの前期型（垂れ目）から後期型（吊り目）への変更などがその例です。もう一つが本項目で解説する、自動車の改造文化における「フェイスリフト」です。これは、特定の車両のフロントやリア周りの印象を刷新するために、他の車種や異なる型式のヘッドランプ、リアコンビネーションランプなどを加工して移植するモディファイ手法を指します。

概要

自動車の灯火類は、しばしば生き物の「目」に例えられ、その形状や配置が車両全体の「表情」を大きく左右します。改造文化におけるフェイスリフトは、この特徴に着目し、比較的小規模な加工で車両のイメージを刷新したり、より個性的なスタイルを追求するために行われます。異なる車種のランプユニットを流用するという手法は古くから存在しましたが、特にアメリカのカスタムシーンにおいて、自動車メーカーが使用する「フェイスリフト」という言葉になぞらえ、このような改造を指すようになったと言われています。

手法と変遷

初期のフェイスリフトは、主にフロントグリルの加工やリアパネルの軽微な板金で対応できるものが主流でした。しかし、時代の経過とともに自動車のデザインや車体パネルの分割構造が大きく変化したことで、ヘッドランプ周辺のみならず、ボンネットやフロントフェンダーなど周辺パネルの大幅な板金加工が必須となるケースが増加しました。この手法は、フロントセクション全体を別の車種のものと丸ごと交換する「顔面スワップ」とは異なります。顔面スワップがしばしばボルトオンでの換装を前提とするのに対し、フェイスリフトはランプユニット周辺に加工が集中し、ベース車両とは異なるメーカーの部品を用いることも多いため、高度な板金技術とデザインセンスが求められるのが特徴です。

カスタム文化の中での位置づけ

かつてのマッスルカーやそれに続くバニング、トラッキン、ハイドロなどのカスタム文化においては、フレーム構造の車両が主流であり、ピラーの短縮（チョップトップ）やホイールベース変更といった大胆な車体改造が比較的容易でした。また、車体からバッジやモール類を取り払い、パネル間の段差をなくして平滑に仕上げるスムージングなど、車体全体のバランスを重視する手法も発達しており、特定部位である「顔」や「お尻」の整形だけが特にフィーチャーされることは稀でした。

しかし、21世紀に入りアメリカ西海岸で「スポーツコンパクト（スポコン）」と呼ばれるジャンルが流行すると、状況は変化します。スポコンのベース車両の多くは日本の乗用車で、ボディを広範囲に切り刻むような改造には向かないモノコック構造が主流でした。このような構造で外観を大きく変える改造は、車体剛性や強度の低下、重量増加を招きやすく、スポコンの魅力である走行性能を損なう結果になりがちです。この限られた条件の下で、カーショーなどで車両を差別化し、注目を集める手段として、他車種のランプユニットを移植するフェイスリフトが再び注目され、その技術やアイデアが競われるようになりました。これは、高度な加工技術が要求されるため、カスタムショップにとっては腕の見せ所でもありました。

人気車種と流用パーツ

スポコン文化においては、特にホンダのDC2型インテグラやEG6型シビックなどがモディファイベースとして人気を博しました。これらの車両が持つ丸形4灯や横長のヘッドランプから雰囲気を大きく変えるため、縦長で近未来的なイメージを持つランプユニットが多く選ばれました。具体的には、ZZT231型セリカやAP1型S2000のヘッドランプなどが人気の流用パーツとなりました。リトラクタブル・ヘッドライトを備えた車両に固定式のランプを移植するフェイスリフトは、駆動用モーターユニットが不要となるため、軽量化にも繋がるという副次的メリットもありました。

日本への波及

アメリカ西海岸のスポコンシーンで使われていた「フェイスリフト」という用語が、日本の自動車雑誌でそのまま紹介されたことにより、日本のカスタム愛好家の間では、この「他車種のランプを流用する外観改造」という狭い意味合いでの用法が定着しました。現在でも、このような高度な板金加工を伴うカスタム手法は、車両に個性的な表情を与える手段として行われています。

主な流用パーツの例

ヘッドランプ
ZZT231 セリカ
AP1 S2000
NA2 NSX（比較的高価）
レクサス・ES / トヨタ・ウィンダム（MCV30系）
リアコンビネーションランプ
* マツダ・アテンザ

高度な技術とセンスが要求されるフェイスリフトは、自動車カスタムの中でも特に創造的な手法の一つと言えるでしょう。

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