リトラクタブル・ヘッドライト

リトラクタブル・ヘッドライト

リトラクタブル・ヘッドライト（Retractable headlights）は、自動車の外部に見えない位置に格納され、点灯時にのみ外部へと展開される前照灯のことを指します。一般的な固定式ヘッドライトとは異なり、消灯中は車体内に隠れているため、車のデザインに多様性を与えます。このようなヘッドライトは、日本語では「格納式前照灯」とも呼ばれています。格納式のヘッドライトには、ポップアップ式、上下スライド式、反転式など、さまざまな種類があります。

背景と登場理由

自動車の前部を低くデザインすることは、空気抵抗を減少させる効果がありますが、一方でヘッドライトの取り付け高さに関する法規制が存在します。このため、安全性を考慮し、歩行者を守るためにはヘッドライトの最低地上高が求められるのです。カーデザイナーはこの相反するニーズに直面してきた歴史があり、この課題を解決するためにリトラクタブル・ヘッドライトが考案されました。特にアメリカでは、1984年の運輸省の規定が改定されるまでは、特定の形状のヘッドライトしか使用できなかったため、デザインに制約がありました。

ヘッドライトの形態

リトラクタブル・ヘッドライトには、一般的にヘッドライトユニットを持ち上げる方法が多く見られますが、ユニットを反転させるタイプや、特定のアメリカ車に見られる直線カバーからライトが回転して出てくるデザインもあります。また、半分または四分の一だけを覆うカバーを開けるタイプや、セミ・リトラクタブル・ヘッドライトも存在します。従来のヘッドライトとは異なり、一部のモデルでは格納時にも点灯することが可能です。これにより、高速走行中のパッシングにおいて空気抵抗を抑えることが可能です。初期の開閉機構にはエンジンの吸気圧を利用するものもありましたが、1980年代には電動式が主流となりました。

歴史と普及

リトラクタブル・ヘッドライトの初期の採用例には、1930年代のアメリカのコード社製の高級車があり、その後1960年代から本格的に採用が進みました。日本においては1967年のトヨタ・2000GTが初めてリトラクタブル・ヘッドライトを搭載したモデルでした。1980年代になると、特にマツダ・サバンナRX-7などのスポーツカーを中心に広く認知され、多くの車両に採用されました。

現在の状況と課題

しかし、時間の経過とともにリトラクタブル・ヘッドライトの採用は減少しています。これは、性能面での劣化や、高いコスト、複雑な開閉機構がもたらす信頼性の問題などが影響しています。また、最近では飛躍的に進化した照明技術により、伝統的な設計の必要性が薄れてきています。法規制の緩和や、経済性を考慮した設計が求められる現代では、通常の固定式ヘッドライトの方がより実用的と言えるでしょう。

結論

リトラクタブル・ヘッドライトは、過去の車両デザインにおいて大きな役割を果たしましたが、技術の進化とともに次第にその姿を消しつつあります。現代の自動車において、ライトのデザインと機能性のバランスが再評価される中で、リトラクタブル・ヘッドライトの位置づけは変化しています。

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