フェノールフタレイン

フェノールフタレイン：性質と用途

フェノールフタレイン (C₂₀H₁₄O₄) は、酸とアルカリの反応を視覚的に示す酸塩基指示薬として知られる有機化合物です。白色または淡黄色の固体で、水には溶けにくい性質を持ちます。略称としてPP、HIn、phphなどが用いられます。

フェノールフタレインは、pHの変化によって色が劇的に変化する特性があります。pH 8.3以下の酸性条件下では無色ですが、pH 10.0を超えるアルカリ性条件下では赤紫色に変化します。さらにpH 13.4を超えると、構造変化により再び無色になります。この色の変化は、フェノールフタレインの分子構造の変化に起因しています。

合成法

フェノールフタレインは、無水フタル酸と2分子のフェノールを酸性条件下で縮合反応させることで合成されます。この合成法は1871年にアドルフ・フォン・バイヤーによって発見されました。

用途

フェノールフタレインは、その特異的な性質から、さまざまな分野で利用されてきました。

酸塩基滴定: フェノールフタレインは、酸とアルカリの反応の終点を正確に判定するための滴定において、最も一般的な指示薬として使用されます。溶液のpH変化を色の変化で確認することで、中和点の特定を容易にします。
血液の検出: カスル・マイヤー試験として知られる血液の検出法にも用いられます。この試験では、フェノールフタレインと過酸化水素水を用いて、血液中のヘモグロビンを検出します。ヘモグロビンが存在する場合、ピンク色に変化します。ただし、この方法はヒト以外の動物の血液にも反応するため、血液の起源を特定する際にはさらなる検査が必要です。
おもちゃ: フェノールフタレインは、おもちゃの製造にも使用されています。例えば、つや消しのインクや、バービー人形の髪の毛の染色などに利用されています。バービー人形の髪には水酸化ナトリウムが含まれており、空気中の二酸化炭素と反応することでpHが変化し、フェノールフタレインの色が変化する仕組みです。
コンクリート検査: コンクリート中の炭酸塩の有無を調べる検査にも応用されています。新しいコンクリートは強アルカリ性ですが、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩が生成するとpHが低下します。1%のフェノールフタレイン溶液を使用することで、このpHの変化を色の変化で確認できます。
金属の検出: カドミウムや金の検出にも使用されます。
万能指示薬: メチルレッド、ブロモチモールブルー、チモールブルーなど他の指示薬と混合して万能指示薬を調製することもあります。

安全性

フェノールフタレインは、かつて下剤として広く使用されていましたが、げっ歯類の実験で発がん性が示唆されたため、多くの国で一般用医薬品からの使用が中止されています。しかし、ヒトにおける発がん性リスクについては、明確な結論は得られていません。現在、下剤としての使用は避けられています。

生理作用

フェノールフタレインは、細胞内のカルシウム濃度を増加させる作用を持つことが知られています。トロンビンやタプシガルギンを抑制することにより、細胞へのカルシウム流入を制御する役割を果たしていると考えられています。

まとめ

フェノールフタレインは、その特異的な性質と多様な用途を持つ重要な化合物です。酸塩基指示薬としての役割に加え、血液検査やコンクリート検査、金属の検出など、幅広い分野で利用されてきました。しかし、発がん性リスクに関する懸念から、下剤としての使用は中止されており、安全な取り扱いが求められます。

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