フェラーリ・499P

フェラーリ499P：50年ぶりのル・マン挑戦と栄光

フェラーリ499Pは、2023年からFIA世界耐久選手権(WEC)に参戦するためにフェラーリが開発したプロトタイプレーシングカーです。1973年の312PB以来、実に50年ぶりのル・マン24時間レースのトップカテゴリー参戦となるワークスマシンで、その開発には数々のドラマと技術革新が凝縮されています。

開発の背景

フェラーリがWECへの参戦を表明したのは2021年2月。そして2022年10月、満を持して499Pが正式発表されました。半世紀ぶりのル・マン挑戦の背景には、ロードカー技術のフィードバックが可能なハイパーカー規定の導入と、F1のバジェットキャップによる人的資源の再配置という2つの大きな要因があります。特に、フェラーリは他社製パーツを使用しない独自のフィロソフィーを貫き、ル・マン・デイトナh(LMDh)規定ではなく、LMH規定を選択しました。

開発はスクーデリア・フェラーリではなく、耐久レース部門がアントネッロ・コレッタの指揮の下で行われました。シャシー製造はダラーラに委託、風洞施設はザウバーと提携するなど、外部との協力体制も構築。レース活動はAFコルセが担当し、ドライバーもフェラーリのGTプログラム出身者を中心に構成されています。

技術仕様

499Pの心臓部は、リアミッドシップに搭載された3.0L 120°V6ツインターボエンジンです。排気量は気筒あたり約499cc（総排気量2994cc÷6気筒）、車名に冠された「499」はこの数値に由来します。296GT3とアーキテクチャを共有するものの、エンジンは車体構造の一部（ストレスメンバー）として設計されており、全く新しい設計となっています。

フロントアクスルには、最大200kWのモーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)を搭載。WECのBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)で定められた速度域では四輪駆動が可能で、エンジンとMGUの合計最高出力はレギュレーションにより500kW(約680PS)に制限されています。パワートレインには、900Vバッテリーとエクストラック製の7速トランスミッションも組み込まれています。また、排気系は2024年途中からアクラポビッチ社製が採用されています。

ボディワークは、風洞実験とCFDシミュレーションを駆使し、フェラーリ・チェントロ・スティーレによるデザイン修正を経て、「一目見てフェラーリとわかる」スタイリングに仕上がっています。特徴的なリアウィング下側のボディワークと、そこに組み込まれた直線状のリアライトが印象的です。

2023年シーズン

2023年シーズン、499Pは開幕戦セブリング1000マイルで早くもその実力を示しました。50号車がポールポジションを獲得する快挙を達成。決勝では、序盤のトラブルやアクシデントの影響を受けながらも3位入賞を果たしました。続くポルティマオ6時間、スパ・フランコルシャン6時間でも表彰台を獲得しましたが、予選の速さに対して、決勝のレースペースやタイヤマネジメントに課題を残しました。

そして迎えたル・マン24時間レース。予期せぬBoP調整による重量ハンデを負いながらも、公式テストから最速タイムを記録。予選では50号車と51号車がフロントローを独占し、決勝では51号車が優勝争いを展開。終盤のトラブルを克服し、トヨタ8号車を僅差で制し、見事優勝を飾りました。ル・マン総合優勝は1965年以来58年ぶり10回目の快挙です。

その後も、モンツァ6時間レースで2位入賞するなど、シーズンを通してトヨタ勢と優勝争いを繰り広げました。最終的に、マニュファクチャラー選手権で2位、ドライバーズ選手権でも上位に食い込む活躍を見せました。

2024年以降

2023年10月29日には、ル・マン24時間レース優勝を記念したサーキット専用モデル「499P モディフィカータ」が発表されました。これは、限定顧客のみを対象とした、公道走行不可の特別なモデルです。

フェラーリ499Pは、伝統と革新を融合させたレーシングマシンとして、今後のWECにおいても大きな存在感を示していくことでしょう。

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