フェラーリ・F60

フェラーリF60：2009年シーズンの挑戦と進化

2009年、スクーデリア・フェラーリは、アルド・コスタ設計による新たなフォーミュラ1マシン、フェラーリF60（コードナンバー660）でF1世界選手権に挑みました。このマシンは、フェラーリがF1に参戦開始して60周年という節目の年に開発され、シーズンを通して使用されました。

空力規制への対応と革新的なデザイン

2009年はレギュレーションが大幅に変更され、空力デザインに大きな制限が加えられました。F60は、この新たなレギュレーションに適合するため、F2008とは大きく異なるデザインを採用しています。
フロントウイングは2段式を維持しつつも、中央部分のエレメントが1枚に制限されたため、ノーズとの一体感は薄れ、翼端板にのみ接続されています。ノーズは前方に延長され、ウイングステーも前方に張り出した独特の形状となりました。リヤウイングもシンプルな2枚エレメント構造ですが、リヤクラッシャブルストラクチャーからの補強ステーが追加されています。さらに、レギュレーションの抜け穴を利用し、リヤウイング中央部にスリットを入れることで、3枚エレメント相当の効果を得る改良も行われました。

フロント周りのエアロダイナミクスも厳しく制限されたため、サイドミラーの取り付け位置も変更されました。F2008まではサイドポンツーン上端からステーを伸ばしてミラーを取り付けていましたが、F60ではサイドポンツーン外側に、アンダーフロアから垂直にステーを伸ばす形に変更。このステーは複雑な形状をしており、ポッドフィンとして空力性能向上に貢献する設計となっています。サイドポンツーン前端の形状も変更され、小さなバージボードも装着されました。インダクションポッドは大型化され、正面から見ると縦長の楕円形となりました。

リヤカウルは、ウイングレットやチムニー、シャークフィンが廃止され、すっきりとしたデザインに。エギゾーストパイプは直接露出する設計でしたが、これはボディワークとして扱えないため違法と指摘を受け、テスト段階でパイプの長さが短縮されるなど、改良が加えられました。

KERS搭載と開発の苦悩

F60には、マニエッティ・マレリと共同開発したKERS（Kinetic Energy Recovery System）が搭載されました。しかし、開発の遅れから開幕戦への搭載は未定でしたが、最終的に開幕戦から搭載されることとなりました。
KERSはシーズンを通して使用されましたが、トラブルも発生しました。マレーシアGPではKERSのトラブルにより白煙が発生し、ライコネンがマシンから飛び降りる場面もありました。中国GPでは搭載を見送ったものの、その他レースでは継続使用されました。チーム代表のステファノ・ドメニカリは、KERS開発に費やした予算をマシン開発に回していれば結果が変わっただろうと語っており、KERS導入は成功とは言えませんでした。しかし、2011年以降KERSが必須装備となることを考慮し、実戦でのノウハウ蓄積が必要だった側面もありました。ベルギーGPでは、ライコネンがKERSを効果的に活用し優勝を飾るなど、効果を発揮した場面もありました。

Bスペックの投入と更なる進化

シーズン中盤には、ブラウンGPなどが採用したダブルデッカーディフューザーを搭載し、軽量化されたBスペックが投入されました。軽量化されたモノコックは、まずライコネンのマシンに搭載され、その後マッサのマシンにも搭載されました。F60Bでは、フロントウイング翼端部分の形状変更、サイドポンツーン形状の見直し、エンジンカウルの形状変更などが行われました。また、エンジンカウル後端にはエアアウトレットが設けられましたが、モナコGP以降は廃止されました。サイドポンツーン後端にもエアアウトレットが追加され、リヤウイング翼端板にも切り欠きが設けられるなど、シーズンを通してアップデートが続けられました。イギリスGPではフロントサスペンション形状の見直しとホイールベースの短縮、軽量化されたKERSの投入も行われています。

2009年シーズンの結果とドライバーのコメント

2009年シーズン前半は、KERS搭載チームが苦戦し、ブラウンGPやレッドブルが選手権をリードする展開となりました。F60も開幕3戦ノーポイントという結果に終わり、予選Q3進出もままならないレースもありました。ハンガリーGPではマッサが負傷欠場、代役ドライバーも結果を残せず、チームは苦戦を強いられました。ベルギーGPでのライコネンの優勝により、16年連続シーズン1勝以上の記録は維持されましたが、終盤戦はアップデートを中止し、次モデルであるF10の開発に注力しました。ライコネンはF60を2008年モデルよりも好んでいましたが、フィジケラは代役として参戦した際に相当なプレッシャーを感じたようです。

スペック概要

以下に、F60の主要なスペック概要を示します。

シャーシ:
シャーシ名: F60 (660)
シャーシ構造: カーボンファイバー/ハニカムコンポジット複合構造モノコック
ブレーキ: ブレンボ
サスペンション: 前後プッシュロッドアクティブトーションバー・スプリング/ダブルウィッシュボーン
ダンパー: ザックス
ホイール: BBS
タイヤ: ブリヂストン
ギアボックス: 縦置きスリップディファレンシャル制御7速+リバース1速クイックシフトセミオートマチック/カーボンファイバー製ケーシング
KERS: フェラーリ・マニエッティ・マレリ共同開発
重量: 冷却水、潤滑油、ドライバーを含めて605kg

エンジン:
エンジン名: Tipo056
気筒数・角度: V型8気筒・90度
排気量: 2,398cc
最高回転数: 18,000rpm
* 重量: 95kg

フェラーリF60は、2009年という激変の年に挑戦を続けた、重要な1台と言えるでしょう。

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