フェルグス・マク・ロイヒ

フェルグス・マク・ロイヒ：伝説の英雄

フェルグス・マク・ロイヒは、アイルランドのアルスター物語群に登場する、かつてのアルスター王であり、英雄として知られています。「フェルギュス」や「ファーガス」とも呼ばれます。その名は「男の力」を意味し、文字通り、彼は超人的な力と精力を持つ人物として描かれています。

伝説的な描写

フェルグスは、その並外れた体格と食欲で語り継がれています。伝承によれば、「耳から唇の間は7フィート、目と目の間は拳7つ分」という規格外の容貌で、その男根の長さも拳7つ分あったとされます。また、7人分の食事を平らげ、700人力の力を持つと語られています。怒りを鎮めるために愛剣カラドボルグで丘を切り飛ばしたという逸話も残っています。これらの伝説は、彼の超人的な力を象徴的に表現しています。

系譜

フェルグスの誕生譚は現存しておらず、彼の家系を特定するには、様々な文献に残された系譜を辿る必要があります。多くの文献で「マク・ロイヒ」が母称とされていますが、母親の名前については諸説あります。クー・フーリンの叔父にあたるという説も存在しますが、これらの系譜には不確かな点も指摘されています。

性と女性関係

フェルグスは、コナハトの女王メイヴの最初の相手として知られています。また、鹿と牛の女神フリディッシュを妻としており、彼女はフェルグスの旺盛な性欲を満たすことができた唯一の女性であったと伝えられています。フリディッシュがいない間は、7人の女性を求めたという逸話も残っています。

アルスター物語群における役割

フェルグスは、コンホヴァル王の前任のアルスター王でした。彼はコンホヴァルの母ネスの愛人でもあり、ネスとの間にコンホヴァルが生まれます。コンホヴァルが王として人望を集めると、フェルグスは喜んで王位を譲りました。しかし、ノイシュとディアドラの事件におけるコンホヴァルの不誠実な行いに失望し、一族を率いてコナハトへ寝返ります。それでも、養い子であるクー・フーリンへの愛情は忘れず、『クーリーの牛争い』ではクー・フーリンを助ける場面も見られます。

コンホヴァル王の死とその後

コンホヴァル王の死後、アルスターでは後継者争いが起こります。フェルグスは、メイヴの策略に乗せられ、コンホヴァルの後継者コルマクの暗殺を容認してしまいます。しかし、後に自身の行いを深く後悔し、アルスターとの和解を図ります。和平後はアルスターに戻り守護者となりますが、妻フリディッシュの死後、再びコナハトへと戻りました。

フェルグスの死

フェルグスの死については、複数の説が存在します。一説では、メイヴの夫アリルが嫉妬から盲目の詩人ルギドを騙し、フェルグスを殺害させたとされます。別の説では、猛毒によって命を落としたとされています。彼の死は、英雄の時代の終焉を象徴するものとして語り継がれています。

死後の世界

フェルグスの死後も、彼の魂は物語に登場します。詩人たちが『クーリーの牛争い』の内容を忘れてしまった際、フェルグスの亡霊が現れ、物語の全容を語ったとされています。

アルスター物語群外での言及

フェルグスは、ウェールズの写本『キルッフとオルウェン』にも登場します。また、『トゥヌクダルスの幻視』では、地獄の拷問場で番人を務める巨人として描かれています。

ゲッシュ（禁忌）

フェルグスには、「宴会を断ってはならない」「ノイシュを危険から護る」という二つのゲッシュ（禁忌）がありました。

フェルグス・マク・ロイヒは、アイルランドの伝説において重要な位置を占める英雄であり、彼の物語は、力、愛、裏切り、そして贖罪といった普遍的なテーマを扱っています。

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