フェルディナント・ザウアーブルッフ

エルンスト・フェルディナント・ザウアーブルッフ

エルンスト・フェルディナント・ザウアーブルッフ（Ernst Ferdinand Sauerbruch, 1875年7月3日 - 1951年7月2日）は、ドイツの外科医であり、軍医としても知られています。彼は胸部外科学の開拓者としての業績で特に有名ですが、日本では「ザウエルブルッフ」と表記されることがよくあります。しかし、ドイツ語の発音に基づき、彼の名前は「ザウアーブルッフ」と表記するのが適切です。

略歴

ザウアーブルッフはドイツ中西部のバルメン（現在のヴッパータール）に生まれ、フィリップ大学マールブルクで医学を学びました。その後、グライフスヴァルト大学やフリードリヒ・シラー大学イェーナを経て、ライプツィヒ大学で1902年に医学の学位を取得しました。彼は1903年からブレスラウ大学で外科教授であったヨハン・フォン・ミクリッツ・ラデツキーの助手として働き、その後1905年にグライフスヴァルト大学へ、1910年にはチューリッヒ大学の外科教授に就任しました。1918年にはミュンヘン大学の外科主任教授となり、1927年から1949年までベルリン大学附属シャリテ病院にて外科教室の主任教授を務めました。

業績

彼の最も著名な業績の一つは、ブレスラウ大学に在籍していた1904年に開発した特殊な減圧室です。この装置によって、患者の首から上だけを外界に出した状態で開胸手術を行うことが可能となり、肺虚脱を防ぐ技術を確立しました。この技法を元に、肺結核の外科的治療法として脊椎側胸郭形成術、横隔膜神経切断術、肺葉切除術を開発し、さらに世界で初めて肺がんや食道がんの切除、慢性収縮性心膜炎や冠動脈瘤の手術に成功しました。第一次世界大戦中には、義肢を開発し、わずかな筋肉で動かすことができる装置も考案しました。

さらに、ザウアーブルッフは並体結合に関する動物実験を行い、臓器の生理的機能を解明することに貢献しました。例えば、2体の動物を結合させて片方の腎臓だけを機能させ、その状態での生存可能性を示しました。また、脾臓が免疫の役割を持つことを初めて示したことでも知られています。

ナチスとの関係

1937年、ザウアーブルッフは国家研究顧問会（Reichsforschungsrat）の顧問官に任命され、この組織はナチス親衛隊の研究プロジェクトに関与していました。1942年には陸軍軍医少将に昇進し、ナッツヴァイラー強制収容所で囚人を使って化学兵器実験を行うことを承認しました。1945年にはナチスに協力したとして告発され、ベルリン保健局を免職となりましたが、法的な責任を問われることはありませんでした。

認知症と医療過誤

ザウアーブルッフは医原病の歴史においても特異な存在です。晩年に脳血管性認知症にかかり、その権威が利用されることで不適切な手術を多数行った結果、多くの患者が命を落としました。彼の同僚たちはこの状況に気づいていましたが、高い名声と政治力を恐れて告発することができなかったのです。1951年、ザウアーブルッフは東ベルリンで75年の生涯を終えました。

1954年には彼の伝記が映画化され、好評を博しましたが、その内容は彼の証言を元にしており、必ずしも歴史的または医学的に正確ではありません。彼の複雑な人生と業績は、医療の領域における期待と失望の象徴とも言えるでしょう。

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