フェルディナン・ギユマルデの肖像

フランシスコ・デ・ゴヤ『フェルディナン・ギユマルデの肖像』

『フェルディナン・ギユマルデの肖像』は、スペインのロマン主義画家フランシスコ・デ・ゴヤによって1798年に描かれた作品である。この肖像画は、1798年から1800年までフランス共和国の駐スペイン大使を務めたフェルディナン・ギユマルデをモデルとしている。現在この作品はパリのルーヴル美術館に所蔵されており、ゴヤの初期の作品としても重要な位置づけを持っている。

フェルディナン・ギユマルデの生涯

ギユマルデは1765年、ブルゴーニュ地方ソーヌ＝エ＝ロワール県のクシュに生まれた。大便を学び、モンペリエ大学で医学博士の学位を取得したのち、1791年にはオータンの市長に就任。その翌年には国民公会の議員に選出され、ルイ16世の死刑判決に賛成したことで、その名を知られるようになった。彼はタレーランによってフランス共和国の駐スペイン大使に任命され、1798年から1800年までマドリードに滞在した。

ギユマルデはまた、ロマン主義の画家ウジェーヌ・ドラクロワの父と親しく、その息子であるルイ・ギユマルデはドラクロワであることから、芸術的な影響を受けていた。1804年にはレジオン・ドヌール勲章のシュヴァリエに叙されたが、1808年に64歳で亡くなっている。

肖像画の描写

この肖像画には、椅子に座るギユマルデが描かれている。彼は左足を右足の上に組み、ほぼ正面に向かって座る姿は、観る者に自己の存在感を伝える。右腕はさりげなく椅子の背もたれに置かれ、彼の鷲鼻が特徴的な顔は、知的で魅力的な表情を持つ。このリラックスした姿勢には自信が感じられ、同時に公的な地位を暗示する雰囲気を持つ。

ギユマルデは濃紺の軍服を身にまとい、腰にはサッシュを巻き、装飾的なサーベルを帯剣している。画面の奥には、金茶色のテーブルクロスが施されたテーブルがあり、バラ飾りの三角帽子や筆記具が置かれている。このサッシュや三角帽の色味がフランス国旗のトリコロールの3色である点にも注目すべきである。

背景は控え目だが、グレーがかった緑の色調で構成され、全体のトーンを落ち着かせている。画家ゴヤは、この作品においてモデルの顔に光を当て、暗い軍服とコントラストを成すことにより、彼の表情を際立たせている。この技術的な配慮が、肖像画の深みと情感を生み出し、観る者を引き込む力を持っている。

制作の背景と受容

制作経緯については不明な点も多いが、ギユマルデは同時代の政治家と関わりがあったため、彼らからの影響や助言を受けてゴヤに作品を依頼した可能性がある。肖像画は1799年7月に王立サン・フェルナンド美術アカデミーで初めて公開された。ギユマルデが亡くなった後も、作品は彼の家族の手に残り続け、その後1865年にルーヴル美術館に寄贈されることとなる。作品は、ゴヤが特に好んでいたとされ、彼自身もこの肖像が自分の作品の中で最も優れたものであると語ったという。

この肖像画は、一見写実的でありながらも、個人の魅力や感情、そして誇りを描写することでロマン主義の精神を凝縮している。ゴヤの技術による繊細な表現が、この作品に特別な価値を与えているのである。

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