フォボス・モノリス

フォボス・モノリスとは、火星の衛星フォボスの表面にそびえ立つ巨大な岩塊を指します。その高さはおよそ85メートルから90メートルに達すると推定されており、フォボスの比較的なだらかな地形において、きわめて目立つ存在です。

モノリスという地質学的特徴

「モノリス」とは、地質学において、周囲の地形から独立して存在する単一の大きな岩石、すなわち一枚岩のことを指します。地球上にも、オーストラリアのウルル（エアーズロック）のような有名な事例が存在します。フォボス・モノリスもまた、このような特異な地質学的特徴を持つ存在と考えられています。

フォボス・モノリスの詳細

この巨大な岩塊は、フォボス表面にある最大のクレーター「スティックニー」の縁近くに位置しています。その高さゆえに長い影を落とし、人工衛星からの観測画像でも容易に識別可能です。

フォボス・モノリスは、画像データの詳細な分析を通じてその存在が初めて特定されました。特に、研究者のエフレイン・パレルモ氏によって指摘され、後にアメリカ航空宇宙局（NASA）ジョンソン宇宙センターの画像分析専門家、ラン・フレミング氏らによっても確認されています。

その起源に関しては、現時点では明確な結論は出ていませんが、一つの有力な説として、フォボスに別の天体が衝突した際に飛び散った岩石が、再びフォボス表面に落下し、この場所に固着した「衝突噴出物」である可能性が指摘されています。

しかし、その直線的な側面や、周囲の環境から孤立した形状から、自然の作用だけでは説明がつかないのではないか、あるいは人工物である可能性も考慮すべきではないか、といった議論も一部で存在します。画像分析を担当したラン・フレミング氏も、その可能性を完全に排除せず、さらなる調査の必要性を提言しています。このような議論は、フォボス・モノリスに対する大衆の関心を一層高める要因となっています。

探査計画の現状

フォボス・モノリスを含む、フォボスの詳細な科学的探査は、長年にわたり科学者たちの関心事です。過去には、「PRIME（フォボス探査国際火星探査）」と呼ばれるミッションが計画されていました。

このPRIMEミッションは、フォボスを周回するオービターと、表面に着陸して直接的な調査を行うランダーから構成される計画でした。フォボスの地質構造、組成、起源などを明らかにするため、複数の科学観測機器を搭載する予定でした。もしこの計画が実行されていれば、フォボス・モノリスのような特異点についても、詳細なデータが得られたはずです。

残念ながら、このPRIMEミッションは計画段階にとどまっており、現在に至るまで具体的な打ち上げ日程が設定されていません。計画は事実上棚上げされた状態にあります。興味深い科学的対象であるフォボス・モノリスの詳細な探査が、いまだ実現していない現状は、今後の宇宙探査の進展が待たれるところです。

なお、人類で二番目に月面に降り立った元宇宙飛行士バズ・オルドリン氏も、このフォボス・モノリスに対する強い関心を示しており、その探査の重要性を訴えています。

フォボス・モノリスは、単なる巨大な岩というだけでなく、その起源や形状を巡る謎、そして未だ実現していない探査計画といった側面から、科学者だけでなく多くの人々の好奇心を刺激する存在です。フォボスの歴史、ひいては火星系の進化を知る上で、重要な手がかりを秘めている可能性があり、今後の探査によってその正体が明らかになることが期待されます。

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