フォート・チャーチル射場

フォート・チャーチル射場

カナダのマニトバ州に位置するチャーチルには、かつて北極圏における科学研究や技術開発の重要な拠点となった、フォート・チャーチル射場が存在します。この施設はロケット打ち上げ複合施設として、1950年代半ばから長年にわたり観測ロケットや様々な飛翔体の弾道飛行実験に利用されてきました。

設立と初期の役割

射場の歴史は1954年に始まりました。カナダ軍が、長距離通信に影響を及ぼすオーロラ現象を研究するためにこの地を選んで建設しました。一度は計画が中断されたものの、1956年にはカナダが参加することになった国際地球観測年（IGY）プロジェクトのために再開され、規模も大幅に拡大されました。IGY関連の実験的な打ち上げは1957年から開始され、2年間のプロジェクト期間が終了する1958年12月まで続けられた後、再び閉鎖されました。

米加の共同利用と技術革新

IGY終了による閉鎖後、1959年8月にはアメリカ陸軍が観測ロケット基地ネットワークの一部として射場を再稼働させました。さらに同年9月からは、カナダ兵器研究開発施設が新型固体燃料推進システムの試験を開始し、これが後にカナダを代表する観測ロケットとなるブラック・ブラントの開発へと繋がりました。しかし、1960年代後半に発生した火災により施設の多くの部分が損傷。ブラック・ブラント試験機の追加打ち上げ12基分は、施設が再建されるまでの間、NASAのワロップス島射場で行われることになりました。

カナダでの運用終結

アメリカ陸軍は1970年6月にフォート・チャーチルでの実験活動を終え、施設はカナダ国家研究評議会に引き継がれました。その後はカナダの上層大気研究計画を支援する主要な拠点として利用されました。1970年代から1980年代にかけて散発的に打ち上げが行われたものの、1990年に射場での活動は完全に停止しました。この射場からは、その運用期間を通じて合計3500回を超えるロケットや飛翔体が宇宙へと送り出された記録が残っています。

現在の状況と商業化の試み

1985年以降、フォート・チャーチル射場は実質的に使用されず、放棄された状態が続いています。現在の施設はフォート・チャーチルの市街地から数キロ南に位置し、全天候型の砂利道で接続されています。周辺地域には、射場跡地の他にも空港、鉄道、エコツーリズムセンター、地磁気研究所などが整備され、インフラや観光の拠点となっています。

一度、この放棄された射場を商業目的で再活用する計画が持ち上がりました。1995年、アクジュイット航空宇宙社は3億ドルの投資をもって、この射場を「カナダ宇宙港」として開発する構想を発表。極地観測ロケットの打ち上げや、ソ連時代のICBMを改修した小型打ち上げ機を用いた商用極軌道衛星打ち上げの拠点として提案しました。フォート・チャーチルの西半球における北向き打ち上げに適した立地は、厳しい寒さという側面を除けば理想的と見なされました。ロシアの複合STCとの提携など計画は進展しましたが、1998年5月にアクジュイット社が資金難に陥り、続く1999年から2000年頃の打ち上げ市場の低迷が決定打となりました。結局、この商業宇宙港計画は実現せず、フォート・チャーチル射場は現在も新たな打ち上げ計画を持たず、事実上放棄されたままとなっています。

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