ブラック・ブラント

ブラック・ブラント：カナダが生んだ観測ロケットの歴史と詳細

ブラック・ブラントは、カナダで設計・製造された観測ロケットです。その初号機は1961年に打ち上げられ、以来800機以上が製造されています。観測ロケットとして非常に高い成功率と信頼性を誇り、現在でもカナダ宇宙庁(CSA)やアメリカ航空宇宙局(NASA)など、世界各国の宇宙機関で利用されています。その名前は、コクガン（Black Brant）という鳥に由来しています。

開発の背景

ブラック・ブラントの開発は、1950年代にカナダ軍備研究開発事業団(CARDE)で行われていた、弾道弾迎撃ミサイルシステムや長距離通信の研究に端を発します。CARDEは、高出力固体燃料の研究のために、ブリストル・エアロスペース社と「推進テスト機」と呼ばれるロケットの製造契約を結びました。

この推進テスト機は、エンジン燃焼時間や推進剤の量、発射角度など、様々な要素をテストできるように設計されました。1959年9月には、フォート・チャーチル射場にて最初の試験飛行が行われました。

その後、CARDEは長距離通信の研究に注力するようになり、推進テスト機は観測ロケットとしての利用価値が見出されるようになりました。ブリストル社は、この用途に適するように設計を修正し、より軽量化されたブラック・ブラントI型が誕生しました。続いて、大型のII型、より高高度に到達可能なIII型が開発され、CARDEはこれらのロケットを数年にわたり打ち上げました。

1963年7月には、IV型のブースターステージとなるV型が初飛行。翌年、IV型の打ち上げが行われましたが、初号機は失敗に終わりました。しかし、それ以降の打ち上げでは高い信頼性を示し、現在まで、改良が続けられています。

ブラック・ブラントの特徴と多様性

ブラック・ブラントは、その高い信頼性と多様性から、様々な観測ミッションに利用されています。改良が進められ、現在ではXI型、XII型が最新型となっています。これらの新型ロケットでは、タロスやテリアなどのミサイルをブースターとして利用し、さらにその上にV型が搭載される構成となっています。

ブラック・ブラントは、98%という高い成功率を誇り、様々なペイロードを搭載できる柔軟性も持っています。これらの特徴から、現在でも最も打ち上げられている観測ロケットとしての地位を維持しています。

新型のXII型は、1500kmという非常に高い高度まで到達することができ、これは電離層より高く、スペースシャトルや国際宇宙ステーションの高度をも超えています。また、一定のペイロード能力も備えているため、衛星軌道への投入も可能となっています。

ブラック・ブラントの推進剤は、CARDEによって開発された最高レベルの固体燃料であり、ブリストル社はこれをCRV7 70mmロケット弾にも利用しています。このロケットは、ワルシャワ条約機構の標準的な航空格納庫を貫通する能力を持ち、西側諸国の事実上の標準的なロケット兵器として使用されています。

ブラック・ブラントにまつわるエピソード

2009年9月19日には、アメリカ合衆国北東部で、「夜空に不審な光を見た」という報告が多数寄せられました。この現象は、NASAが雲の研究のために打ち上げたブラック・ブラントIIXの4段目が、高度278kmで排出した微粒子によって作り出された人工の夜光雲であることが判明しました。

カナダ宇宙庁(CSA)の本部には、ブラック・ブラントIX型の1:1スケールのモックアップが展示されています。

各モデルの仕様

以下にブラック・ブラントの各モデルの主な仕様をまとめます。

ブラック・ブラント I
ペイロード: 68 kg
最大到達高度: 225 km
推進力: 111 kN
重量: 730 kg
直径: 0.26 m
全長: 7.41 m
ブラック・ブラント II
ペイロード: 68 kg
最大到達高度: 274 km
推進力: 89 kN
重量: 800 kg
直径: 0.44 m
全長: 8.45 m
ブラック・ブラント III
ペイロード: 18 kg
最大到達高度: 177 km
推進力: 49 kN
重量: 286 kg
直径: 0.26 m
全長: 5.50 m
ブラック・ブラント IV
二段ロケット（III型＋V型）
ペイロード: 100 kg
最大到達高度: 1,000 km
推進力: 111 kN
重量: 1,356 kg
直径: 0.44 m
全長: 11.06 m
ブラック・ブラント V
一段ロケット
ペイロード: 68 kg
最大到達高度: 387 km
推進力: 111 kN
重量: 1197 kg
直径: 0.44 m
全長: 8.15 m
ブラック・ブラント VI
最大到達高度: 72 km
推進力: 7 kN
重量: 100 kg
直径: 0.12 m
全長: 2.80 m
ブラック・ブラント VIII
最大到達高度: 340 km
推進力: 196 kN
重量: 2,000 kg
直径: 0.44 m
全長: 11.90 m
ブラック・ブラント XI
三段ロケット (タロス(1段目) + トーラス(2段目) + V型(3段目))
ペイロード: 230 kg（700 km到達）または590 kg（250 km到達）
ブラック・ブラント X
ペイロード: 90 kg
最大到達高度: 900 km
推進力: 257 kN
重量: 2600 kg
直径: 0.44 m
全長: 14.50 m
ブラック・ブラント XII
四段ロケット(タロス(1段目) + トーラス(2段目) + V型(3段目) + ニーカ(4段目))
ペイロード: 110 – 410 kg（メーカー評価）
最大到達高度: 最大1500 km （ペイロード依存）
重量: 最大 5300 kg （ペイロード依存）
全長: 15 m

外部リンク

Black Brant Sounding Rockets
* Black Brant entry in Encyclopedia Aeronautica

ブラック・ブラントは、その長い歴史の中で、観測ロケットの分野において重要な役割を果たしてきました。これからも、様々な宇宙ミッションに貢献していくことが期待されます。

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