フタトゲチマダニ

フタトゲチマダニとは

フタトゲチマダニ（学名：Haemaphysalis longicornis）は、昆虫などを含む節足動物の一種で、クモやサソリに近いダニの仲間です。特にマダニ科に分類され、動物や人間から血を吸って栄養を得る寄生虫です。このダニは、重症熱性血小板減少症候群（SFTS）という、人に感染すると重篤な症状を引き起こす病気の原因となるウイルスを媒介するダニの一つとして知られています。

体の特徴

成虫の体の大きさは約3ミリメートルほどですが、動物などから血を吸うと、体が膨らんで10ミリメートル近くまで大きくなります。

生息地

このダニは非常に広い範囲に生息しており、ユーラシア大陸のロシアから始まり、中国、朝鮮半島を経て東南アジアに及び、さらに遠くオーストラリアやニュージーランドまで分布しています。日本国内でも、北は北海道から南は沖縄県の八重山諸島まで、ほぼ全国的に見られます。

どんな暮らしをしているか（生態）

主な活動時期は春から秋にかけて、具体的には5月から10月頃です。この時期、フタトゲチマダニはイネ科の草の茎や葉の先に潜み、近くを通りかかったウシ、シカ、イヌ、そして人間や鳥類などの動物（宿主）に取り付こうと待ち伏せしています。一旦宿主に取り付くと、約1週間ほどかけて血を吸います。

もし吸血できる宿主に出会えなくても、適切な湿度さえあれば1年から2年は飢餓状態で生き延びることができますが、最終的には餓死してしまいます。冬の間は、落ち葉の下などで幼虫や成虫の姿で寒さをしのぎ、暖かくなる5月頃から再び活動を始めます。ある地域の調査では、フタトゲチマダニの幼虫は夏から秋に、若虫は春から夏に、成虫は夏から秋にかけて多く見られるという報告があります。

どうやって子孫を残すか（繁殖）

フタトゲチマダニの繁殖方法は非常に特徴的で、マダニの仲間では珍しく、メスだけで子孫を残せる単為生殖を常に（恒常的に）行う系統が存在します。遺伝子の構成が異なる二つの系統があり、一つは通常通りオスとメスが交尾して繁殖する「両性生殖系統」、もう一つはメスだけで子孫を残す「単為生殖系統」です。

オセアニア、東南アジア、そして日本の多くの地域に分布しているのは、主にこの単為生殖系統です。一方、日本の特に西日本には、オスとメスがいて繁殖する両性生殖系統も見られます。

興味深いことに、このダニの雌雄は、受精した卵からはオスが生まれ、受精していない卵からはメスが生まれるという、アリやハチのような決定方式をとります。ただし、日本の単為生殖系統では、メスが圧倒的に多く、オスの数は非常に少ない（メス約500に対してオスは1程度）上、そのオスも繁殖能力を持たないとされています。

メスは血を十分に吸った後、1ヶ月以内に2000個から3000個もの小さな卵を産みます。卵を産み終えたメスは、その後わずか3日ほどで一生を終えます。孵化した幼虫は、宿主から血を吸い、体から離れ、脱皮を繰り返しながら若虫になり、さらに同じ過程を経て成虫へと成長していきます。

どんな病気をうつすか（媒介伝染病）

このダニは、人間や動物に様々な病気を引き起こす病原体を媒介することが知られています。特に、日本国内で問題となっている重症熱性血小板減少症候群（SFTS）の原因ウイルスを媒介するダニの一つとして重要視されています。その他にも、

日本紅斑熱
Q熱

といった、人に感染する可能性のある病気の病原体も運びます。また、イヌやウシがかかるピロプラズマ症という寄生虫病の原因となる原虫も媒介することがあります。

野山や草むらに入る際は、ダニに刺されないよう適切な対策を講じることが大切です。

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