フョードル1世

フョードル1世の生涯とその影響

フョードル1世（Фё́дор I Иванович）は、1557年5月31日に生まれ、1598年1月6日に亡くなったモスクワ・ロシアのツァーリです。彼はイヴァン4世の三男であり、母はロマノフ家出身のアナスタシア・ロマノヴナです。フョードルは正教会で「至福者」として列聖され、記念日は1月20日（旧暦では1月7日）とされています。

即位前の背景

フョードルは幼いころに母と死別し、その後も生まれつき病弱で軽度の知的障害がありました。1580年、彼はイヴァン4世の信任を受けたタタールの貴族ボリス・ゴドゥノフの妹、イリナ・ゴドゥノヴァと結婚しました。1581年には、兄のイヴァンが父に誤って殺害される出来事があり、彼は突然後継者としての地位を得ることとなりました。

即位後の治世

1584年、イヴァン4世の死後、フョードルはツァーリとして即位しました。彼の治世中には、クリミア軍やノガイ・オルダ軍に対する防衛力の強化が求められました。そのため、1585年頃にはドン川支流のヴォロネジに木造の要塞を築くよう命じました。

また、彼の即位に先立って、イヴァン4世は五人の重臣を摂政に指名しており、この摂政団は権力を巡る熾烈な戦いを繰り広げました。ボリス・ゴドゥノフは1588年までに多くの貴族たちを失脚させ、一時的に全権を掌握しました。ボリスは事実上のツァーリとして振る舞い、外国の使節はフョードルの宮廷を訪問した後、必ずボリスのもとへ挨拶に行くような状況になりました。

フョードルは政治にはほとんど関与せず、日々の生活は皇妃と共に過ごす娯楽や祈りに費やされました。彼とイリナの間には子供が生まれず、唯一の子である娘フェオドーシヤも2歳で亡くなりました。後継者としては異母弟のドミトリーが考えられましたが、彼は非嫡出子の扱いで、正式な後継者とは認められていませんでした。ドミトリーは1591年、ウグリチの自邸で死亡し、事故死とされたものの、暗殺の噂も広がりました。

死とリューリク朝の終焉

フョードル1世は1598年に亡くなり、彼の死によってリューリク朝は断絶しました。後継者を指名することなくして、全国会議でボリスが新しいツァーリに選ばれました。これにより、ロシアは動乱の時代に突入し、短命な統治者たちが続けて現れる厳しい時代が始まりました。

1610年以降、ツァーリ不在の状態が続きましたが、1613年にはフョードル1世の従甥であるミハイル・ロマノフがツァーリに選出され、この時代が終わりを迎えることになります。

人物像

フョードル1世は「極めて単純な人物」と同時代の人々から評されており、教会に行ったり鐘を鳴らしたりすることで多くの時間を無駄にしていたと言われています。しかし、正教会との関係は深く、信心深い姿勢が評価されています。「佯狂者」と呼ばれることもあり、これは聖人として崇められた証でもありました。彼の重要な側面は、多くの先代に変わって、平和を求める姿勢と教会への帰属意識であったかもしれません。

彼の短い治世はリューリク朝における大きな変化を象徴し、後のロシア史において重要な影響を与えることになりました。

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