フランクフルト地下鉄

フランクフルト地下鉄（独: U-Bahn Frankfurt）は、ドイツの都市フランクフルト・アム・マインで運行されている都市高速鉄道です。市内の路面電車や路線バスと共に、フランクフルト市交通公社（VGF）によって運営されています。

概要

この鉄道は、3つの基本路線（A線、B線、C線）と、それらを走行するU1からU9までの9つの系統から成り立っています。路線の総延長は約65キロメートルに及びます。軌間は標準軌である1,435 mmを採用しており、電力供給は直流600 V、集電方式は架線集電式となっています。

「地下鉄」という正式名称や、かつて地下のみを走行する区間があったことから地下鉄に分類されています。しかし、日本の多くの地下鉄や、ドイツ国内でもミュンヘン、ベルリンなどの地下鉄とは異なり、既存の路面電車網を高規格化して構築された点が大きな特徴です。この方式は、後に西ドイツ各地で導入され、「シュタットバーン（Stadtbahn）」として知られるようになります。現在、地下区間は主に都心部に限られており、郊外では路面電車のように道路上を走行したり、高速鉄道規格の専用軌道区間を走行したりします。全区間が地下を走行する系統は存在しません。

駅数は全部で86駅あり、そのうち地下駅は27駅、地上駅は59駅です。地上駅には、道路上に設けられた路面電車式の停留所も含まれます。

歴史

第二次世界大戦後の復興が進むにつれて、従来の路面電車網の輸送能力には限界が見え始めました。輸送力増強のため、当初はモノレールの導入が検討されましたが、既存の路面電車との互換性や相互乗り入れによるネットワーク維持の観点から、シュタットバーン方式が採用されました。「レールのない街」をスローガンに、新たな地下交通網整備計画が策定されました。

これに基づき、1963年に建設が開始され、1968年10月4日に最初の区間として、現在のU1系統の一部であるハウプトヴァッヘ - 北西センター間が開業しました。これは、従来の路面電車や郊外電車の都心部路線を地下線に切り替えたものです。以降も建設と延伸が進められ、現在のネットワークが形成されています。

路線

フランクフルト地下鉄は、走行する線路の物理的な経路によってA、B、C、D線の4つに分類され、それらを組み合わせる形でU1からU9の系統が運行されています。

A線

フランクフルト南駅を起点とし、市街中心部を地下で北上します。ドルンブッシュから道路中央の専用軌道となります。ヘッデルンハイムでU2系統が分岐し、ツァイルヴェークでU3系統が分岐します。U1系統はギンハイムまでフランクフルト市内を走行しますが、U2系統はバート・ホンブルク/ゴンツェンハイム、U3系統はオーバーウルゼル（ホーエマルク）と、隣接する自治体まで路線が延びています。U3系統のオーバーウルゼル駅ではドイツ鉄道と接続しており、末端区間には単線区間も存在します。
2010年には、U3系統が経由するニーダーウルゼルとU2系統が経由するカールバッハを結ぶ新線が開業し、これによってU8系統（フランクフルト南駅 - リートベルク）とU9系統（ギンハイム - ニーダーエシュバッハ）が新設されました。

A線を走行する系統:

- U1系統: フランクフルト南駅 - ギンハイム
- U2系統: フランクフルト南駅 - バート・ホンブルク/ゴンツェンハイム
- U3系統: フランクフルト南駅 - ホーエマルク
- U8系統: フランクフルト南駅 - リートベルク
- U9系統: ギンハイム - ニーダーエシュバッハ

車庫はヘッデルンハイムに大規模なものがあり、ボマースハイムにも小規模な車庫があります。将来的にU2系統のバート・ホンブルクへの延伸が計画されています。

B線

ボッケンハイマー・ヴァルテからフランクフルト中央駅を経由し、コンスターブラーヴァッヘを経て市東部へ向かう路線です。
U4系統は、ボッケンハイマー・ヴァルテから中央駅、コンスターブラーヴァッヘを経由し、ゼックバッハーラント通りまで地下を走行します。その後地上に出てシェフレ通りでU7系統と合流し、エンクハイムに至ります。かつてはゼックバッハーラント通り止まりで全線地下を走る唯一の系統でしたが、2008年に延伸されました。
U5系統は、以前U4系統と中央駅 - コンスターブラーヴァッヘ間を共用していましたが、2023年12月以降はコンスターブラーヴァッヘ始発となり、中央駅には乗り入れなくなりました。コンスターブラーヴァッヘからは地上への接続線を通って路面電車区間に入り、プロインゲスハイムへ向かいます。フランクフルト中央駅からは、旧貨物駅跡地であるオイローパ地区への延伸工事が進められています。
なお、ボッケンハイマー・ヴァルテ - フランクフルト中央駅間は、正式にはD線の一部であり、現在は暫定的にU4系統が乗り入れています。将来、ボッケンハイマー・ヴァルテから北へ延伸し、ギンハイムでU1系統と接続する計画があります。

B線を走行する系統:

- U4系統: ボッケンハイマー・ヴァルテ - エンクハイム
- U5系統: コンスターブラーヴァッヘ - プロインゲスハイム

車庫はU4系統のゼックバッハーラント通り付近に東車庫があります。U5系統のエッケンハイマーラント通り付近にも車庫があり、U1-U3系統への連絡線が設けられています。

C線

市の西側、ヘール通り（U7）とハウゼン（U6）を起点とします。両系統はインドゥストリーホーフで合流し、そこから地下鉄として中心市街地を横断します。市街東部の動物園駅で再び分岐し、U6系統はフランクフルト東駅で終点となります。U7系統は、ヨハンナ・テッシュ広場から再び地上の専用軌道またはセンターリザベーション区間となり、エンクハイムに至ります。
特に、ハウプトヴァッヘ - コンスターブラーヴァッヘ間は、ドイツ鉄道の近郊電車（Sバーン）と一体になった複々線構造となっており、コンスターブラーヴァッヘ駅は方向別のホーム配置となっています。

C線を走行する系統:

- U6系統: ハウゼン - フランクフルト東駅
- U7系統: ヘール通り - エンクハイム

D線

正式な線路名称としては、以下の区間がD線とされています。

- DI: フランクフルト中央駅 - ボッケンハイマー・ヴァルテ（U4系統が走行）
- DIII: ニーダーウルゼル - リートベルク（U8・U9系統が走行）

車庫は、東車庫のほか、ヘール通りの近くに車両の中央工場を備えた車庫があります。これらの営業線路のほかに、地下鉄同士や路面電車と接続するための非営業の回送線路も存在します。

車両

フランクフルト地下鉄の車両は、路面電車に似た形態が特徴的ですが、Ptb形を除いてステップがなく、2車体連接構造で、幅2,650 mmの広幅車体を採用しています。工場へ入場する際には、路面電車の線路を自走して回送することもあります。

U1形

地下鉄車両の試験的位置づけとして、1965年に2編成が製造されました。前面が曲面ガラスの3枚窓となっている点が特徴です。当初は1001・1002号でしたが、後に301・302号に改番されました。当初の塗装はクリームに紫帯でしたが、後にU2形と同様の赤・白塗装に変更されました。1976年に使用停止となり、営業運転には就きませんでした。1編成が復元され、市電博物館に保存されています。

U2形

1968年から1985年にかけて、合計102編成が量産されました。現在もU4系統やU7系統の一部で使用されています。過去にはPtb形の車両不足を補うためにU6系統に貸し出されたこともありました。前面が2枚窓となっている点が特徴で、通常2編成から4編成を連結して運転されます。塗装は当初の赤・白から、旧標準色のオレンジ・ベージュ・アイボリーを経て、現在は大半がターコイズブルー系の「スバルビスタブルー」となっています。登場時の塗装を復元した車両や、旧標準色の車両も一部に存在します。パンタグラフは菱形とシングルアームが混在しています。床面の段差の有無などにより、U2e形、U2h形といった派生形式が存在します。ほぼ同じ設計の車両が、カナダのカルガリー、エドモントン、アメリカのサンディエゴのライトレールでも導入されています。2008年以降、後述のU5形による置き換えが進められており、今後の動向が注目されています。2012年にはA線でのさよなら運転が行われました。1970年代に発生した車庫火災で6両が焼失しており、その補充のために追加製造が行われたため、当初の製造数である102両全てが同時に揃った時期はありませんでした。

U3形

1979年から製造されました。U2形とは異なり、前面が大型の1枚ガラスで、運転室後方の配置（前方の扉と客室窓の位置関係）が変更されています。U2形より若干出力が向上していますが、製造数は27編成に留まります。現在はU4系統で使用されています。かつてはオレンジ・ベージュ・アイボリー塗装でしたが、現在は全車がスバルビスタブルー塗装となっています。

U4形

1994年から量産された形式で、斜めに傾斜した前面デザイン、角ばった車体形状、プラグドアの採用が特徴です。制御方式はインバータ制御の交流モーター車です。39編成が存在し、主にU1系統からU3系統で使用されています。塗装は当初からスバルビスタブルーのみです。近年は、U5形と連結して走行するための改造が順次進められています。前面デザインはU3形を基に設計されています。

U5形

U2形の置き換えを主な目的として、2008年から増備が始まった最新形式です。ボンバルディア社製のフレキシティ・スウィフトシリーズであり、フランクフルト地下鉄の標準仕様である2車体連接、高床式構造を踏襲しています。冷房装置を初めて搭載した車両でもあります。今後146編成が製造される予定で、将来的にはU3形の置き換えも視野に入っています。この形式は、2車体連接のU5-25形（全長約25m）と、4車体連接のU5-50形（全長約50m）に分けられています。U5-50形には、工場入出場時の分割を考慮した仮運転台が中央連接部に設けられています。現在、U5-25形には603番以降、U5-50形には801番以降の車両番号が付与されています。601番と602番は、製造中の水害被害により廃車となったため欠番となっています。初めてフランクフルトに到着した車両は603号と604号であり、欠番の601・602号が到着するまでの間、仮にその番号を付けていた時期がありました。

Ptb形

1972年から製造された路面電車P形をベースに、地下鉄規格に対応させた形式です。P形は3車体連接の路面電車でしたが、Ptb形は高床・低床双方に対応可能な可動ステップを備え、地下鉄規格に合わせてステップ部分が張り出しているのが特徴です。「b」はドイツ語で「幅広い」を意味し、Pt形にステップが追加されたことを示しています。58編成が存在し、主に末端区間に併用軌道を持つU5系統からU7系統で使用されています。2編成または3編成を連結して運転されます。塗装はオレンジ・ベージュ・アイボリーとターコイズグリーンの車両が混在し、パンタグラフもシングルアームと菱形の両方が存在します。ステップの張り出し部には、赤・白の斜め模様の警戒色が施されています。

もう一度検索