フランク・ローマ皇帝

フランク・ローマ皇帝：西ローマ皇帝の系譜とカロリング帝国の興亡

フランク・ローマ皇帝とは、フランク王を兼ね、800年のカール大帝の戴冠を起点として、924年のベレンガーリオ1世の暗殺をもって終焉を迎えた、神聖ローマ帝国の前身となる皇帝位です。この皇帝位は、古代ローマ帝国の西ローマ皇帝とは異なり、東ローマ皇帝を認めず、唯一のローマ皇帝を自称しました。東ローマ帝国はフランク・ローマ皇帝をフランク王としては認めたものの、ローマ皇帝としては認めず、ブルガリア皇帝と同等の扱いとしていました。

カロリング帝国と皇帝位継承

カール大帝によって築かれたカロリング帝国は、現在のフランス、ドイツ、イタリアにまたがる広大な領土を有していました。帝位は当初、カール大帝の直系に受け継がれましたが、フォントノワの戦いなどの相続争いを経て、曾孫のルートヴィヒ2世の代には、イタリアに限定されました。フランスやドイツでは、皇帝でない君主がフランク王を名乗っていました。その後、カール大帝の曾孫であるカール3世がフランク王となり帝国を再統一しましたが、その統治は長く続かず、887年の退位と帝国分裂によりカロリング帝国は崩壊しました。

しかし、帝位そのものは消滅せず、イタリア王が獲得すべき最高権威として存続しました。カール大帝の女系子孫を含む様々な家系から皇帝が登場し、イタリア王位と帝位をめぐる争いが続きました。しかし、924年にベレンガーリオ1世が暗殺された後は、帝位を継承できるほどの強力な人物が現れませんでした。

800年の戴冠と東ローマ帝国との関係

797年に東ローマ帝国で起きたエイレーネーによるクーデターと女帝即位は、西方では認められず、ローマ皇帝の空位状態とみなされました。この状況下で、ローマ教皇レオ3世は800年12月25日、カール1世（カール大帝）にローマ皇帝の冠を授けました。東ローマ帝国は当初、カール大帝の皇帝号を承認しませんでしたが、811年のブルガリアとの戦いで敗北した東ローマ帝国は、カール大帝からの支援を期待し、812年にミカエル1世ランガベーが正式に承認しました。その見返りとして、カール大帝はヴェネツィアとダルマチアを東ローマ帝国に譲渡しました。しかし、12、13世紀には東ローマ帝国はこの皇帝号に異議を唱えるようになります。

カール大帝の戴冠は、フランク王国の建国や帝国への変貌ではなく、既に存在したローマ帝国の皇帝位をカール大帝が継承した出来事でした。カール大帝は帝国組織や制度を新たに創出したわけではなく、教皇は既存のカール大帝の帝国に聖別を施したに過ぎません。この勢力はローマ帝国と異なる国家ではなく、ローマ帝国内での皇帝権争いに過ぎなかったため、特別な国名を持たなかったものの、歴史学上は様々な名称で呼ばれています。

カロリング帝国の分裂と皇帝位継承争い

814年に帝位を継承したルートヴィヒ1世敬虔王は、817年に「帝国の秩序について」布告を出し、息子達への帝位継承を定めようとしました。しかし、この布告は相続争いの火種となり、兄弟間の対立は激化しました。フォントノワの戦いを経て、ヴェルダン条約で帝国は三分割され、皇帝号はロタール1世が継承しましたが、その後も皇帝位をめぐる争いは続きました。875年のロドヴィコ2世の死後、イタリアにおけるカロリング朝の血筋は断絶し、皇帝号は西フランク王国のシャルル2世、そして甥のカール3世肥満王へと渡りました。しかし、カール3世は887年に廃位され、カロリング帝国は完全に崩壊しました。

カロリング朝崩壊後と神聖ローマ帝国への移行

カロリング朝崩壊後も、皇帝位をめぐる争いは続きました。ベレンガーリオ1世、グイード、アルヌルフなど様々な人物が皇帝を名乗り、イタリアは混乱状態に陥りました。916年にベレンガーリオ1世が皇帝として戴冠しましたが、924年に暗殺され、皇帝号は消滅しました。イタリアはその後、複数の勢力が支配権を争う状態が続きました。962年、東フランク王オットー1世が皇帝として戴冠し、神聖ローマ帝国が成立しました。オットー1世はカール大帝の後継者として帝位を継承したと見なされており、これによってフランク・ローマ皇帝の系譜は神聖ローマ帝国へと受け継がれたと言えます。

まとめ

フランク・ローマ皇帝は、古代ローマ帝国とは異なる独自の皇帝位であり、カロリング帝国の興亡、そして東ローマ帝国との複雑な関係の中で、その歴史を刻みました。その終焉は、神聖ローマ帝国の成立という新たな時代の幕開けを示唆するものでした。

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