カロリング帝国

カロリング帝国

カロリング帝国（Karolingerreich）は、中世初期の西ヨーロッパ・中央ヨーロッパに存在した帝国で、カールの戴冠により復活した「ローマ帝国」とみなされています。カロリング家の勢力が拡大した8世紀後半から、オットー1世の戴冠までの期間を指すのが一般的です。ただし、その範囲は明確に定まっておらず、始点としてピピン3世の即位、終点としてベレンガーリオ1世の死去などが用いられることもあります。

概要

751年、カロリング家のピピン3世がメロヴィング朝のキルデリク3世を廃し、フランク王位に就きました。その子カールは、774年にイタリアを征服してランゴバルド王となり、800年にはローマ教皇レオ3世によってローマ皇帝として戴冠されました。これにより、西ヨーロッパにおける新たな帝国の時代が幕を開けました。

カールの死後、息子ルートヴィヒ1世が840年に亡くなると、帝国は内乱に突入。843年のヴェルダン条約によって、帝国は中部フランク王国、東フランク王国、西フランク王国の3つに分裂しました。帝位は中部フランク王が継承しましたが、その権威は東西の兄弟国には及びませんでした。しかし、名目上の帝国としての統一性は維持され続けました。

884年、カロリング帝国はカール3世のもとで一時的に再統一されますが、888年に彼が死去すると再び分裂し、かつての姿を取り戻すことはありませんでした。その後、後継諸国では地元の貴族が王に擁立されるようになり、東フランク王国のみがカロリング家の血統を911年まで保ちました。西フランク王国では893年にカロリング朝が復活し、987年まで続きました。

帝国の支配領域は111万2000平方キロメートルと推定され、人口は1000万人から2000万人に及んだとされます。南はイベリア半島のコルドバ首長国、北東はデンマーク、西はブルターニュと接し、東方のスラヴ人やアヴァール人を征服して国境線を東進させました。また、イタリア全土（教皇領を除く）を領有すると主張し、東ローマ帝国やベネヴェント公国と対立しました。

名称

「カロリング帝国」という名称は現代における慣習的なもので、当時この名が使われていたわけではありません。帝国の公用語であったラテン語では、普遍王国、ローマ人とフランク人の帝国、ローマ帝国、キリスト教帝国など、様々な呼称が見られました。

歴史

カロリング家の興隆（732年ごろ - 768年）

カロリング家の祖であるカール・マルテルは、フランク王国の宮宰としてピレネー山脈以北の西ヨーロッパで絶対的な権力を握っていました。彼の時代には、後のカロリング帝国の版図の大部分がすでに形成されていました。彼が獲得した領土には、ザクセン、ロンバルディア、スペイン辺境領などが含まれます。

カール・マルテルは、封建制と実力主義体制の原型を構築した人物としても知られています。これらの制度は、彼の息子や孫の代でさらに改良されていきました。また、732年のトゥール・ポワティエ間の戦いでは、イスラーム勢力の侵入を阻止し、キリスト教ヨーロッパ世界を守り抜きました。この勝利により、カールは「マルテル（鎚）」の称号を得ました。歴史家のエドワード・ギボンは、カール・マルテルを中世最高のプリンスと称賛しました。

カール・マルテルの息子ピピン3世は、ローマ教皇ザカリアスの承認を得て、メロヴィング朝の王を廃位し、自らフランク王に即位しました。768年、ピピン3世が亡くなると、息子のカール1世（大帝）が治世を開始しました。当初は弟のカールマンと共同統治を行いましたが、771年にカールマンが死去した後は、カール大帝が単独で広大なフランク王国を支配しました。800年にはローマ皇帝として戴冠しました。

カール大帝の治世（768年 - 814年）

カール大帝の時代、カロリング帝国は西ヨーロッパのほぼ全土を覆い、その領土はかつてのローマ帝国を思わせるものでした。カール大帝は、反抗するゲルマン人を打ち破り、領土をエルベ川まで広げました。その影響力は東ヨーロッパ平原にまで及んだとされています。

カール大帝の治世の多くは遠征に費やされました。774年にランゴバルド王国を滅ぼし、778年にはイベリア半島へ出兵しましたが、これは失敗に終わりました。788年にはバイエルンを征服し、795年には息子ピピンにアヴァール人への遠征を命じました。772年から続いたザクセン戦争は804年に終結し、現在のドイツ北部まで領域を広げました。

カール大帝は、自身の死後、帝国が息子たちによって分割されることを予見していました。小カールはネウストリア王、ルートヴィヒ1世はアクィタニア王、ピピンはイタリア王となりました。しかし、ピピンが810年に、小カールが811年に亡くなったため、ピピンの庶子ベルナルドがイタリア王位を継承しました。813年、カール大帝の唯一の生き残りであったルートヴィヒ1世が共同皇帝となり、814年にカール大帝が死去すると、全帝国を継承しました。

ルートヴィヒ敬虔帝の治世と内乱（814年 - 843年）

ルートヴィヒ1世は帝国の運営に苦労しました。817年、息子たちを新たな皇帝とし、長男ロタール1世をイタリア王と共同皇帝、ピピン1世をアクィタニア王と副帝、ルートヴィヒ2世をバイエルン王と副帝としました。しかし、ベルナルドがロタールのイタリア王即位に反発して反乱を起こし、捕らえられて牢死。これに後悔したルートヴィヒ1世は懺悔を行いましたが、これは皇帝の権威を著しく損なうものでした。

後妻ユーディトとの間に生まれたカール2世に領土を与えようとしたため、ロタールらが反発し、内乱が発生。830年にはロタールらが父を廃位しますが、翌年にルートヴィヒ1世が復位。その後も内乱が続き、833年には再び父帝が廃位、投獄されました。835年に和平が結ばれ、ルートヴィヒ1世は帝位を取り戻しました。838年にピピン1世が死去し、ルートヴィヒ1世はシャルル2世をアクィタニア王としますが、アクィタニア貴族はピピン1世の子ピピン2世を擁立し、対立は続きました。

841年、フォントノワの戦いで、ロタール1世とピピン2世の連合軍と、ルートヴィヒ2世とシャルル2世の連合軍が激突。敗れたロタール1世はアーヘンに逃れましたが、弟たちの連合軍には敵いませんでした。842年にはストラスブールの誓いが結ばれ、ルートヴィヒ2世とシャルル2世はロタール1世が皇帝に不適格であると宣言。これにより、東フランク王国と西フランク王国の分裂が決定的なものとなりました。843年、ヴェルダン条約によって、帝国は3分割され、抗争は終結しました。

帝国の分裂（843年 - 877年）

ヴェルダン条約により、ロタール1世は皇帝位と中部フランク王国を、ルートヴィヒ2世は東フランク王国を、シャルル2世は西フランク王国をそれぞれ継承しました。ロタール1世の死後、中部フランク王国はさらに分割され、イタリアはロドヴィコ2世が、ブルグントとプロヴァンスはシャルルが、残りの地域はロタール2世が継承。ロタール2世の領土はロタリンギアと呼ばれるようになりました。

ロドヴィコ2世は新領土を得られなかった不満から、東フランク王ルートヴィヒ2世、西フランク王シャルル2世と同盟しました。シャルル2世は逃亡を余儀なくされましたが、聖職者たちの抵抗により地位を維持。860年にはシャルル2世がプロヴァンス王シャルルを攻撃しますが、撃退されました。863年、シャルルが死去すると、その領土はロドヴィコ2世とロタール2世に分割されました。

869年にロタール2世が亡くなると、その遺領はメルセン条約でルートヴィヒ2世とシャルル2世に分割されました。ロドヴィコ2世が死去すると、教皇ヨハネス8世の支持を得て、西フランク王シャルル2世がイタリア王と皇帝位を獲得。876年にルートヴィヒ2世が亡くなると、シャルル2世は東フランクを併呑しようとしましたが、敗北。東フランクは3兄弟に分割されました。

混乱と最後の統一（877年 - 888年）

シャルル2世の死後、帝国はヴァイキングの侵入や内紛により混乱を深めました。西フランク王国は息子ルイ2世が継承しましたが、まもなく病死。王国は2人の息子によって分割されました。プロヴァンスのボソは独立し、キスユラブルグント王国を建国しました。イタリア王位はカールマン、その後、カール3世が継承しました。

881年、カール3世が皇帝に即位し、884年にアクィタニア・ブルグンディアも併合。これにより、カール大帝以来のカロリング帝国が再統一されました。

しかし、カール3世はヴァイキングから帝国を守ることができず、無能を露呈。887年にアルヌルフが反乱を起こし、カール3世は退位を余儀なくされました。888年にカール3世が亡くなると、カロリング家による帝位継承は途絶え、帝国は永久に分割されることとなりました。

887年から888年の帝国分割

カロリング帝国は多くの王国に分裂し、非カロリング家の王が立つことになりました。アルヌルフはケルンテン、バイエルン、ロレーヌなどを、パリ伯ウードは西フランクを、ラヌルフ2世はアクィタニアを、ベレンガーリオ1世はイタリアを、ルドルフ1世はユーラブルグントを、ルイ3世はプロヴァンスをそれぞれ継承しました。

人口

800年頃のカロリング帝国内の主要都市の人口は以下の通りです。

ローマ: 50,000人
パリ: 25,000人
レーゲンスブルク: 25,000人
メス: 25,000人
マインツ: 20,000人
シュパイアー: 20,000人
トゥール: 20,000人
トリーア: 15,000人
ケルン: 15,000人
リヨン: 12,000人
ヴォルムス: 10,000人
ポワティエ: 10,000人
プロヴァン: 10,000人
レンヌ: 10,000人
ルーアン: 10,000人

カロリング帝国出身の皇帝の一覧

教皇によって聖別されたカロリング朝のローマ皇帝は以下の通りです。

カール1世（大帝）
ルートヴィヒ1世（敬虔帝）
ロタール1世
ロドヴィコ2世
カール2世（禿頭王）
カール3世（肥満王）

脚注

出典

注釈

関連項目

カロリング朝ルネサンス
カロリング朝建築
カロリング朝美術
カロリング時代の修道院の一覧

外部リンク

The Making of Charlemagne's Europe (768–814) (King's College Londonによる、カロリング朝の法的文書からの人名・社会経済データデータベース)

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