フランシスコ・ピサロ

フランシスコ・ピサロ：インカ帝国を征服した男

フランシスコ・ピサロ（1470年頃 - 1541年6月26日）は、スペインの軍人、探検家であり、インカ帝国を征服したコンキスタドールとして歴史に名を刻んでいます。彼の生涯は、まさに波乱万丈という言葉がふさわしいものでした。

生い立ちと初期の活動

ピサロは、スペインのエストレマドゥーラ地方トルヒージョで、父ゴンサロ・ピサロと母フランシスカ・モラレスの間に生まれました。父は小貴族の軍人、母は召使という身分でした。彼は教育を受ける機会に恵まれず、読み書きもできないまま成長しました。

1498年から1502年にかけてイタリア戦争に参加した後、1502年にニコラス・デ・オバンド総督とともにエスパニョーラ島へ渡りました。1513年には、バルボアのパナマ遠征に同行し、太平洋に到達。この時、ペルラス諸島で黄金郷ペルーの情報を得たことが、彼の運命を大きく左右することになります。

インカ帝国への侵略

探検家ディエゴ・デ・アルマグロと共に、1524年と1526年の二度にわたり南アメリカを探検。苦難の末に都市トゥンベスに到達し、広大な領土を保有する帝国の存在を知ります。1528年にスペインに戻り、カルロス1世からペルー支配の許可を得て、征服の権利、搾取の特権、貴族の位を授けられました。ヌエバ・カスティーリャの総督に任命され、兄弟や兵士を集めて1530年にパナマへ帰還。

1531年、ピサロは約180人の手勢と37頭の馬を率いてパナマを出港し、ペルーへの侵入を開始しました。サン・マテオ島で騎馬隊を下船させ、トゥンベスまで南下してサン・ミゲル・デ・ピウラを建設。その後、インカ皇帝アタワルパを追って南進します。1532年、カハマルカでアタワルパと会見し、これを捕らえました。アタワルパの身代金として莫大な貴金属を受け取りますが、アタワルパが生きている限り反乱の可能性があると判断し、約束を破って1533年7月26日に処刑を強行しました。

アタワルパ処刑後も、ピサロはインカ帝国の内紛を利用しながら進撃を続け、1533年11月にはインカ帝国の首都クスコに無血入城を果たし、インカ帝国を滅亡させました。クスコを制圧したものの、敵対するインディオの大軍に包囲されていたため、スペイン人居留地との連絡を保つ必要性から、1535年6月に「シウダー・デ・ロス・レイェス（諸王の都）」、現在のリマ市を建設しました。

アルマグロとの対立と暗殺

しかし、支配地の分配、特にクスコの領有権をめぐってディエゴ・デ・アルマグロとの対立が激化し、1537年から内戦が勃発。1538年4月、サリナスの戦いでアルマグロを破り処刑しました。しかし、この勝利はピサロ自身を破滅へと導きます。スペイン本国の支持を失い、1536年にはカルロス1世からアタワルパを無実の罪で処刑したとして死刑を宣告されます。そして1541年6月26日、アルマグロの遺児一派によってリマで暗殺されました。埋葬されなかったピサロの遺体は、ミイラとして現在も残されています。

スペインとペルーでの評価

母国スペインでは英雄として称えられ、1992年から2002年まで発行されていた1000ペセタ紙幣に肖像が使用されていました。一方、ペルーでは複雑な感情で見られています。リマ建都400周年を記念して贈られたピサロの騎馬像は、当初は大聖堂の前に置かれましたが、市民の反発により場所を転々としました。最終的には「国民感情にそぐわない」との理由で撤去され、現在はリマック川沿いの城塞広場にひっそりと置かれています。

フランシスコ・ピサロは、その功績と非道な行為の両面から、今もなお議論の対象となる人物です。彼の生涯は、征服の光と影、そして歴史の複雑さを物語っています。

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