フランシス・アストン

フランシス・ウィリアム・アストン：質量分析器の発明とノーベル化学賞受賞

フランシス・ウィリアム・アストン (1877年9月1日-1945年11月20日) は、イギリスを代表する化学者、物理学者です。彼の名を不朽のものとしたのは、質量分析器の発明と、それによる1922年のノーベル化学賞受賞です。アストンは、科学技術の発展に大きく貢献し、現代化学の基礎を築いた人物として高く評価されています。

アストンは裕福な商人の息子として、バーミンガムで生まれました。バーミンガム大学とケンブリッジ大学で教育を受けた後、醸造業に3年間従事しました。しかし、彼の真の情熱は科学、特に真空放電現象にあったようです。この探求心から、彼はグロー放電における陰極付近の暗い領域を発見し、現在では「アストン暗部」として知られています。

1909年、アストンはケンブリッジ大学にある名門研究所、キャヴェンディッシュ研究所に移り、ノーベル物理学賞受賞者であるジョセフ・ジョン・トムソンの指導の下で研究を始めました。キャヴェンディッシュ研究所での彼の研究は、陽極線の分析に焦点を当てていました。

アストンの画期的な研究は、改良された陰極線管を用いた実験から始まりました。彼は、陰極に陽イオンを通過させる穴を開けることで、カナル線と呼ばれる現象を観察しました。このカナル線が、元素の陽イオンであることを確認したのです。さらに、磁場を用いてカナル線を偏向させることで、イオン、つまり原子の質量を精密に測定することに成功しました。写真乾板を用いることで、測定精度は従来の方法をはるかに凌駕しました。

この技術革新は、ネオンの同位体の発見につながりました。アストンはネオンの質量を測定する実験を行い、ネオンが2種類の異なる質量を持つ同位体の混合物であることを示しました。この発見は、イギリスの化学者ウィリアム・プラウトが提唱した、原子量が水素原子量の整数倍になるというプラウトの仮説を覆すものでした。プラウトの仮説は、塩素など一部の元素では成り立たないことが知られていましたが、同位体の存在がその理由を明確に説明することとなりました。

第一次世界大戦中は、研究活動が中断され、アストンは飛行場で塗料の化学的研究に従事しました。しかし、戦後、彼は研究に復帰し、さらに画期的な成果を挙げました。酸素の質量の1/16を基準とした場合、多くの元素の質量は整数値に非常に近い値を示すことが判明しました。唯一、水素のみが約0.8%のずれを示し、この質量の差異は、原子核の結合エネルギーに変換される質量欠損という概念へとつながっていきました。

アストンの業績は高く評価され、1921年には王立協会フェローに選出されました。また、同協会から1922年にはヒューズ・メダル、1938年にはロイヤル・メダルを受賞しています。これらの栄誉は、彼の科学への多大な貢献を物語っています。質量分析器の発明は、物理学、化学、そしてその他の科学分野に計り知れない影響を与え、アストンは科学史に名を残す偉大な科学者の一人として記憶されています。彼の研究は、現代科学の進歩に多大な貢献を果たし、現在もその成果は活かされ続けています。

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