フランスの音楽専門教育
フランスにおける音楽の専門教育は、主に「コンセルヴァトワール」や「音楽院」と呼ばれる実践的な教育機関で提供されています。学術的な教養教育は大学や研究センターが行うという役割分担が見られます。一般の教育機関と比較して、音楽院の専門課程は複雑な階層構造を持ち、多様な研修プログラムや遠征の機会も豊富に用意されています。
フランス国内には、子供向けの基礎教育から高等音楽院への進学準備までをカバーする地方音楽院が約400校あります。また、国家資格を取得できる高等音楽院（日本の音楽大学に相当）は12校が設置されています。これらの教育機関の多くは行政が運営する公立ですが、一部に私立の音楽学校も存在します。音楽院の中には、音楽だけでなく舞踊や演劇といった他の芸術分野と共に組織されている場合もあり、その際は「音楽・舞踊学校」や「音楽・演劇学校」などと呼ばれることもあります。
フランスの音楽教育機関には、複数の省庁が関与しています。作曲や器楽演奏などの実技分野は文化省が、音楽学の研究や音楽教育学の分野は国民教育省が担当しています。さらに、軍楽隊に関する教育は国防省の管轄となります。
フランスの音楽院で取得できる修了資格は多岐にわたります。かつては、国際的に共通認識されている学士・修士・博士といった国家資格との位置づけに差異が生じることがありました。欧州各国間での学生交流を活性化するため、ボローニャプロセスに基づき、2010年頃から欧州各国の音楽大学との間で教育課程の単位や国家資格の互換性確保が進められています。これに伴い、フランス独自の音楽専門課程やディプロム（国家資格）を、他国の制度に適応させるための改革が必要となりました。
特に、パリとリヨンの両国立高等音楽院は、設立当初から少数精鋭の専門教育機関として位置づけられ、国内外のコンクールで活躍できる音楽家の育成を第一目標としてきました。これらの国立高等音楽院の国家資格は現在移行期にあり、一時的に複数の制度が併存していました。従来のパリの国家専門資格（DFS）やリヨンの国家音楽高等資格（DNESM）はバカロレア修了後4年相当とされていましたが、2007年に導入された両校共通の新しい国家高等資格（DNS）はバカロレア修了後3年相当となりました。これらの資格の次の課程として存在する上級課程（perfectionnement）で得られる資格は、国内で他に類を見ない両校独自の資格でした。2008年以降、ボローニャプロセスに対応するため、両校には欧州の単位互換制度に準じた第一課程（学士相当、Bac+3）、第二課程（修士相当、Bac+5）、第三課程（博士相当、Bac+8）が設置されています。
国立高等音楽院の資格が大学の学位と同等と見なされるようになる一方で課題となったのが、地域圏立以下の行政管轄音楽院で取得される国家資格の扱いです。地域圏立音楽院の前身である国立地方音楽院（CNR）時代に取得できたDEMや、その上級課程の首席修了者に与えられたDEMSといった国家資格は、フランス国内では評価されるものの、国外では必ずしも音楽大学の学位と同等とは見なされませんでした。国内に300校以上存在する行政管轄の音楽院のうち、優れた教育実績を持つ一部の機関が高等教育機関としての認定を目指し、フランス政府と地方自治体との間で長年制度改革が進められてきました。
2020年1月、フランス文化省は、世界の主要な音楽大学との競争力を高め、最高水準の音楽教育を実現するための方策として、高等音楽教育機関として国家資格を授与できる音楽院を国内の12校に指定すると発表しました（教育法典第9条）。これらの指定高等音楽院は規制緩和の対象となり、より機動的で柔軟な運営、資金調達、ガバナンス、他の機関との提携、学生定員の管理などが可能となり、経営の裁量が拡大しました。また、国内トップレベルの音楽・舞踊・演劇学校18校による学術連携ネットワークとして、フランス国立芸術創造協会（ANESCAS）が設立されました。
フランス文化省により、大学の学士課程に相当する第一課程は、2020年時点で以下の12校が指定されています。この課程を修了すると、大学卒業資格である国家音楽家専門資格（Licence DNSPM）が授与されます。指定校では、海外留学制度や国立大学との単位互換による音楽学学士号、教員免許、提携大学とのダブルディグリー取得の機会も提供されています。
文化省指定の国立高等音楽院（12校）は以下の通りです。
パリ国立高等音楽舞踊学校 (CNSMD de Paris)
リヨン国立高等音楽舞踊学校 (CNSMD de Lyon)
ブルゴーニュ高等音楽学校 (ESM, Dijon)
リール高等音楽舞踊学校 (ESMD, Lille)
ストラスブール高等芸術学校 (HEAR, Strasbourg)
プロヴァンス高等音楽教育学院 (ISEM, Aix-en-Provence)
トゥールーズ高等芸術学院 (L'isdaT, Toulouse)
パリ・ブローニュ＝ビヤンクール高等芸術教育センター (PSPBB, Paris, Boulogne-Billancourt)
ボルドー高等音楽舞踊教育センター (PESMD, Bordeaux)
ブルターニュ高等舞台芸術教育センター (Pont Supérieur, Rennes)
セーヌ＝サン＝ドニ高等芸術教育センター (Pôle Sup'93)
ポワティエ高等音楽舞踊学術センター (Pôle Aliénor, Poitiers)
修士課程に相当する第二課程（Grade de Master）および博士課程に相当する第三課程（Doctorat）は、2020年時点で以下の2校が文化省より指定されています。
パリ国立高等音楽舞踊学校
リヨン国立高等音楽舞踊学校
行政が運営する実践教育機関としては、2020年1月現在、国の管轄下に置かれる高等音楽院が12校、地方自治体が管轄する音楽院が約400校設置されています。
国立高等音楽院 (CNSM): フランス国内に2校（パリ、リヨン）存在する、文化省直属の国立音楽大学法人です。舞踊科も併設されているため、「国立高等音楽・舞踊学校」とも称されます。国立大学との単位互換、海外留学、国家音楽家専門資格（学士、修士、博士相当）の取得が可能です。2020年には文化省と地方自治体の共同運営による指定高等音楽院10校が加わり、国の管轄下にある高等音楽院は計12校となりました。
地域圏立音楽院 (CRR): 国内および海外地域圏に計41校あります。地方自治体によって運営されており、「地方音楽院」と呼ばれることが多いです。
県立音楽院 (CRD): 95県に計105校存在します。こちらも地方自治体が運営しています。
コミューン立音楽院 (CRC): 国内全体に計245校あります。コミューンの概念が広範なため、「市立音楽院」や「区立音楽院」と訳し分けられることがあります。
これらに加えて、以下のような機関も存在します。
陸軍軍楽音楽院（CMMAT, ヴェルサイユ）：国防省管轄の軍楽隊養成機関です。
私立の音楽学校：パリ・エコールノルマル音楽院（ENMP）、スコラ・カントルム、パリ国際音楽院（CIMP）などがあります。
フランス共和国において音楽教育機関として認定されている主な施設は、専門分野によって分類できます。
音楽実践: 2020年1月現在、専門的に音楽実践を学ぶことのできる施設として、文化省指定国立高等音楽大学法人（前述の12校）や、地方自治体による専門音楽教育機関（パリ地方音楽院、リヨン地方音楽院など多数）があります。
教員育成: フランスの音楽教育者資格には、Diplôme d'État（DE）とCertificat d'aptitude（CA）の2種類があります。CA資格はパリ・リヨンの国立高等音楽・舞踊学校の教員養成科で、DE資格は全国各地の音楽・舞踊教育養成センター（CEFEDEMなど11校）で取得可能です。
音楽研究: 音楽史、音楽美学、音楽教育学、音楽理論、音響技術などの研究や、音楽教育者を育成する機関として、ソルボンヌ大学、リヨン大学などの大学や、国立音響音楽研究所（IRCAM）などがあります。
地方音楽院、県立音楽院、コミューン立音楽院は学期制を採用しており、学年末に試験や面接が行われます。地方音楽院と県立音楽院には専門資格課程があり、コミューン立音楽院には子供やアマチュア向けの課程が設けられています。
教育課程は段階的に進み、おおよそ以下のようになります。
第一課程: 3〜5年（導入課程を含む）
第二課程: 3〜5年
第三課程: 2〜5年
第三課程からは、音楽研究資格免状（CFEM）を取得する課程と、職業指導資格（DNOP）を目指す課程に分かれます。ただし、DNOP資格は現在準備段階にあり、多くの学校では依然としてDEM資格が授与されています。
* 専門課程（第三専門家進路指導課程）: 2〜4年
より高度な専門研究を目指す学生向けの課程です。現状では修了時にDEMが支給されていますが、将来的には国家専門進路資格（DNOP）への移行が計画されています。また、一部の音楽院では、国立高等音楽院や海外の音楽大学への受験準備のための上級講座（perfectionnement）が開講されています。
フランス国内には、子供向けの基礎教育から高等音楽院への進学準備までをカバーする地方音楽院が約400校あります。また、国家資格を取得できる高等音楽院（日本の音楽大学に相当）は12校が設置されています。これらの教育機関の多くは行政が運営する公立ですが、一部に私立の音楽学校も存在します。音楽院の中には、音楽だけでなく舞踊や演劇といった他の芸術分野と共に組織されている場合もあり、その際は「音楽・舞踊学校」や「音楽・演劇学校」などと呼ばれることもあります。
フランスの音楽教育機関には、複数の省庁が関与しています。作曲や器楽演奏などの実技分野は文化省が、音楽学の研究や音楽教育学の分野は国民教育省が担当しています。さらに、軍楽隊に関する教育は国防省の管轄となります。
資格制度とボローニャプロセスへの対応
フランスの音楽院で取得できる修了資格は多岐にわたります。かつては、国際的に共通認識されている学士・修士・博士といった国家資格との位置づけに差異が生じることがありました。欧州各国間での学生交流を活性化するため、ボローニャプロセスに基づき、2010年頃から欧州各国の音楽大学との間で教育課程の単位や国家資格の互換性確保が進められています。これに伴い、フランス独自の音楽専門課程やディプロム（国家資格）を、他国の制度に適応させるための改革が必要となりました。
特に、パリとリヨンの両国立高等音楽院は、設立当初から少数精鋭の専門教育機関として位置づけられ、国内外のコンクールで活躍できる音楽家の育成を第一目標としてきました。これらの国立高等音楽院の国家資格は現在移行期にあり、一時的に複数の制度が併存していました。従来のパリの国家専門資格（DFS）やリヨンの国家音楽高等資格（DNESM）はバカロレア修了後4年相当とされていましたが、2007年に導入された両校共通の新しい国家高等資格（DNS）はバカロレア修了後3年相当となりました。これらの資格の次の課程として存在する上級課程（perfectionnement）で得られる資格は、国内で他に類を見ない両校独自の資格でした。2008年以降、ボローニャプロセスに対応するため、両校には欧州の単位互換制度に準じた第一課程（学士相当、Bac+3）、第二課程（修士相当、Bac+5）、第三課程（博士相当、Bac+8）が設置されています。
国立高等音楽院の資格が大学の学位と同等と見なされるようになる一方で課題となったのが、地域圏立以下の行政管轄音楽院で取得される国家資格の扱いです。地域圏立音楽院の前身である国立地方音楽院（CNR）時代に取得できたDEMや、その上級課程の首席修了者に与えられたDEMSといった国家資格は、フランス国内では評価されるものの、国外では必ずしも音楽大学の学位と同等とは見なされませんでした。国内に300校以上存在する行政管轄の音楽院のうち、優れた教育実績を持つ一部の機関が高等教育機関としての認定を目指し、フランス政府と地方自治体との間で長年制度改革が進められてきました。
2020年1月、フランス文化省は、世界の主要な音楽大学との競争力を高め、最高水準の音楽教育を実現するための方策として、高等音楽教育機関として国家資格を授与できる音楽院を国内の12校に指定すると発表しました（教育法典第9条）。これらの指定高等音楽院は規制緩和の対象となり、より機動的で柔軟な運営、資金調達、ガバナンス、他の機関との提携、学生定員の管理などが可能となり、経営の裁量が拡大しました。また、国内トップレベルの音楽・舞踊・演劇学校18校による学術連携ネットワークとして、フランス国立芸術創造協会（ANESCAS）が設立されました。
高等教育課程（音楽大学相当）
第一課程 (Bac+3)
フランス文化省により、大学の学士課程に相当する第一課程は、2020年時点で以下の12校が指定されています。この課程を修了すると、大学卒業資格である国家音楽家専門資格（Licence DNSPM）が授与されます。指定校では、海外留学制度や国立大学との単位互換による音楽学学士号、教員免許、提携大学とのダブルディグリー取得の機会も提供されています。
文化省指定の国立高等音楽院（12校）は以下の通りです。
パリ国立高等音楽舞踊学校 (CNSMD de Paris)
リヨン国立高等音楽舞踊学校 (CNSMD de Lyon)
ブルゴーニュ高等音楽学校 (ESM, Dijon)
リール高等音楽舞踊学校 (ESMD, Lille)
ストラスブール高等芸術学校 (HEAR, Strasbourg)
プロヴァンス高等音楽教育学院 (ISEM, Aix-en-Provence)
トゥールーズ高等芸術学院 (L'isdaT, Toulouse)
パリ・ブローニュ＝ビヤンクール高等芸術教育センター (PSPBB, Paris, Boulogne-Billancourt)
ボルドー高等音楽舞踊教育センター (PESMD, Bordeaux)
ブルターニュ高等舞台芸術教育センター (Pont Supérieur, Rennes)
セーヌ＝サン＝ドニ高等芸術教育センター (Pôle Sup'93)
ポワティエ高等音楽舞踊学術センター (Pôle Aliénor, Poitiers)
第二・第三課程 (Bac+5 / Bac+8)
修士課程に相当する第二課程（Grade de Master）および博士課程に相当する第三課程（Doctorat）は、2020年時点で以下の2校が文化省より指定されています。
パリ国立高等音楽舞踊学校
リヨン国立高等音楽舞踊学校
フランス音楽教育機関の形態
行政が運営する実践教育機関としては、2020年1月現在、国の管轄下に置かれる高等音楽院が12校、地方自治体が管轄する音楽院が約400校設置されています。
国立高等音楽院 (CNSM): フランス国内に2校（パリ、リヨン）存在する、文化省直属の国立音楽大学法人です。舞踊科も併設されているため、「国立高等音楽・舞踊学校」とも称されます。国立大学との単位互換、海外留学、国家音楽家専門資格（学士、修士、博士相当）の取得が可能です。2020年には文化省と地方自治体の共同運営による指定高等音楽院10校が加わり、国の管轄下にある高等音楽院は計12校となりました。
地域圏立音楽院 (CRR): 国内および海外地域圏に計41校あります。地方自治体によって運営されており、「地方音楽院」と呼ばれることが多いです。
県立音楽院 (CRD): 95県に計105校存在します。こちらも地方自治体が運営しています。
コミューン立音楽院 (CRC): 国内全体に計245校あります。コミューンの概念が広範なため、「市立音楽院」や「区立音楽院」と訳し分けられることがあります。
これらに加えて、以下のような機関も存在します。
陸軍軍楽音楽院（CMMAT, ヴェルサイユ）：国防省管轄の軍楽隊養成機関です。
私立の音楽学校：パリ・エコールノルマル音楽院（ENMP）、スコラ・カントルム、パリ国際音楽院（CIMP）などがあります。
主な音楽教育機関の分類
フランス共和国において音楽教育機関として認定されている主な施設は、専門分野によって分類できます。
音楽実践: 2020年1月現在、専門的に音楽実践を学ぶことのできる施設として、文化省指定国立高等音楽大学法人（前述の12校）や、地方自治体による専門音楽教育機関（パリ地方音楽院、リヨン地方音楽院など多数）があります。
教員育成: フランスの音楽教育者資格には、Diplôme d'État（DE）とCertificat d'aptitude（CA）の2種類があります。CA資格はパリ・リヨンの国立高等音楽・舞踊学校の教員養成科で、DE資格は全国各地の音楽・舞踊教育養成センター（CEFEDEMなど11校）で取得可能です。
音楽研究: 音楽史、音楽美学、音楽教育学、音楽理論、音響技術などの研究や、音楽教育者を育成する機関として、ソルボンヌ大学、リヨン大学などの大学や、国立音響音楽研究所（IRCAM）などがあります。
行政運営音楽院の教育形態
地方音楽院、県立音楽院、コミューン立音楽院は学期制を採用しており、学年末に試験や面接が行われます。地方音楽院と県立音楽院には専門資格課程があり、コミューン立音楽院には子供やアマチュア向けの課程が設けられています。
教育課程は段階的に進み、おおよそ以下のようになります。
第一課程: 3〜5年（導入課程を含む）
第二課程: 3〜5年
第三課程: 2〜5年
第三課程からは、音楽研究資格免状（CFEM）を取得する課程と、職業指導資格（DNOP）を目指す課程に分かれます。ただし、DNOP資格は現在準備段階にあり、多くの学校では依然としてDEM資格が授与されています。
* 専門課程（第三専門家進路指導課程）: 2〜4年
より高度な専門研究を目指す学生向けの課程です。現状では修了時にDEMが支給されていますが、将来的には国家専門進路資格（DNOP）への移行が計画されています。また、一部の音楽院では、国立高等音楽院や海外の音楽大学への受験準備のための上級講座（perfectionnement）が開講されています。
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