フランソワーズ・ドボンヌ

フランソワーズ・ドボンヌ：多岐にわたる活動で社会変革を目指した作家・思想家

フランソワーズ・ドボンヌ（1920年3月12日 - 2005年8月3日）は、フランスの作家、評論家として、生涯にわたりフェミニズム、反植民地主義、エコロジスト、死刑廃止運動家として多岐にわたる社会運動に関わりました。特に、エコフェミニズムの提唱者として知られ、その思想は現代社会における女性の地位や環境問題に大きな影響を与えています。

生い立ちと背景

1920年、パリに生まれたドボンヌは、知的で進歩的な家庭環境で育ちました。母方の祖父はカルリスタの蜂起に参加し、敗北後にフランスへ亡命。母親は当時の女性としては珍しく理系を専攻し、マリ・キュリーの講義を受けています。また、両親は社会運動にも参加しており、このような環境がドボンヌの思想形成に大きな影響を与えました。幼い頃から、結婚後も教員を続けていた母親の姿を通して、女性に対する社会の不平等に気づき、問題意識を持つようになりました。

作家活動とレジスタンス運動

10代の頃から小説を書き始め、13歳で短編小説最優秀賞を受賞するなど、早くからその才能を発揮しました。トゥールーズ文学・芸術大学で学んだ後、独学で教員となり、執筆活動を続けました。1942年には最初の詩集を発表し、その後も小説などで高い評価を得ます。

第二次世界大戦中は、レジスタンス運動に「フランキー」という偽名で参加し、機密文書の配達やパンフレットの作成などを担当。戦時中に作家と結婚し、一子をもうけましたが、間もなく離婚。この時期に、数学者や哲学者、社会学者など、様々な分野の知識人と交流を深めました。

フェミニズムとの出会いと活動

シモーヌ・ド・ボーヴォワールの『第二の性』は、ドボンヌに大きな影響を与え、彼女はボーヴォワールと親交を結び、1951年にフェミニストとしての最初の著書を発表しました。本書でドボンヌは、ギリシア・ローマ神話を分析し、女性が政治から排除された過程を解明。マルクス主義にフェミニズムの可能性を見出し、家父長制批判を展開しました。また、フェミニズムが提示する問題は経済・社会問題以上に重要であるとし、社会主義による女性の解放を訴えました。

反植民地主義への参加

ドボンヌは1945年に共産党に入党しましたが、ハンガリー動乱を機に脱退。アルジェリア戦争に対する共産党の態度に幻滅し、1960年には「121人のマニフェスト」に署名。アルジェリア戦争を合法的な独立闘争であると認め、フランス軍の拷問を非難しました。このマニフェストには、ボーヴォワールやサルトルなど、多くの知識人が署名しています。

1950年代から60年代にかけては、大手出版社で原稿の下読みをしながら、小説、評論、伝記など多くの著書を発表。同性愛者のセクシュアリティを探求した作品も発表しました。

女性解放運動とエコフェミニズムの提唱

1968年の五月革命を機に、女性解放運動の担い手となり、1971年には同性愛革命行動戦線を結成。人工妊娠中絶の合法化を求める「343人のマニフェスト」にも署名しました。このマニフェストは、中絶の合法化への道を切り開く大きな力となりました。

ドボンヌは1974年に発表した『フェミニズムか、死か』で、エコフェミニズムを提唱。人類が直面している危機の原因を人口過多と資源破壊であるとし、男性による女性の支配と自然の支配は同じイデオロギーに基づいていると論じました。そして、地球を救う役割を担うのは女性であると主張し、この「新たなヒューマニズム」こそエコフェミニズムであるとしました。1978年にはエコロジー・フェミニズム協会を設立し、その思想を広めようとしました。

その他の活動と晩年

死刑廃止運動にも積極的に参加し、フランスの刑務所制度や死刑制度に反対する活動を行いました。1976年には、『リベラシオン』紙に「犯していない殺人の罪で懲役20年を言い渡された囚人と結婚する」と発表し、物議を醸しました。

晩年は、過激化の傾向を示すようになり、テロリスト・過激派を支持する発言も行いました。そのため、孤独な晩年を送りましたが、エコフェミニズムの運動は、後にオーストラリアや米国で大きな広がりを見せることになりました。

2005年8月3日、パリで死去。彼女の多岐にわたる活動と先駆的な思想は、現代社会に大きな遺産として残されています。

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