343人のマニフェスト

343人のマニフェスト：フランス中絶合法化運動の狼煙

「343人のマニフェスト」とは、1971年4月5日にフランスの『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』誌に掲載された、中絶の合法化を求める請願書です。これは、当時フランスで違法とされていた中絶に対し、343人の女性たちが自らの体験を告白し、その合法化を訴えた画期的な運動でした。

時代背景

当時、フランスでは刑法典317条により、中絶は「堕胎罪」として処罰の対象でした。しかし、実際には年間100万件もの中絶が行われており、その多くが危険な状況下で行われていました。この状況に対し、ジャーナリストのジャン・モローとニコル・ミュクニック、そしてシモーヌ・イフらが中心となり、中絶経験を持つ女性たちに勇気をもって声を上げるよう呼びかけました。

マニフェスト発表と反響

シモーヌ・ド・ボーヴォワールによって起草されたマニフェストには、女性解放運動のリーダーであるクリスティーヌ・デルフィやアントワネット・フーク、女優のカトリーヌ・ドヌーヴ、作家のマルグリット・デュラスなど、各界の著名人を含む343人の女性が署名しました。

署名者たちは、自らを「あばずれ女」と揶揄されることも覚悟していました。実際、風刺画家のカビュは『シャルリー・エブド』誌で、当時のミシェル・ドブレ国防相を風刺する絵を描き、物議を醸しました。しかし、この運動はフランスの女性解放運動(MLF)の一環として、女性が自分の身体を自由に扱う権利を求めるものであり、多くの共感を呼びました。

市民的不服従とボビニー裁判

「343人のマニフェスト」は、市民的不服従の運動とみなされ、署名者たちが処罰を受けることはありませんでした。しかし、1972年には、16歳の少女が強姦によって妊娠し、中絶を行ったとして、母親や医師とともに起訴されるという事件（ボビニー裁判）が起こりました。この裁判で、弁護士のジゼル・アリミは「343人のマニフェスト」の支援を受け、中絶を禁止する法律自体が不当であると主張し、無罪判決を勝ち取りました。

ヴェイユ法成立へ

「343人のマニフェスト」に続き、1973年には中絶合法化に賛同する「医師331人のマニフェスト」が発表されました。こうした一連の運動は、「妊娠中絶と避妊の自由化運動 (MLAC)」へと発展し、1975年1月17日、ついにヴェイユ法（妊娠中絶法）が成立し、中絶が合法化されたのです。

「343人のマニフェスト」は、フランスにおける女性の権利向上に大きく貢献した、歴史的な運動として記憶されています。この運動は、タブー視されていた中絶の問題を公に議論するきっかけとなり、多くの人々の意識を変え、法律の改正へと繋がりました。

また、この運動はフランス国外にも影響を与え、ドイツではアリス・シュヴァルツァーが同様の運動を展開し、中絶禁止法の改正を求める請願書を発表しました。このように、「343人のマニフェスト」は、世界的な女性解放運動にも大きな影響を与えたのです。

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