フランチェスカ・クッツォーニ

フランチェスカ・クッツォーニ：美貌と才能、波乱に満ちた生涯を送ったソプラノ歌手

フランチェスカ・クッツォーニ（Francesca Cuzzoni, 1696年4月2日 - 1778年6月19日）は、18世紀前半にロンドンを中心に活躍したイタリア出身のソプラノ歌手です。ヘンデルのオペラにおける卓越した歌唱で名声を博し、当時の音楽界に大きな影響を与えました。

初期のキャリア

クッツォーニはパルマで生まれ、フランチェスカ・ランツィに師事しました。1714年には早くもパルマで歌唱の記録が残っており、その後ボローニャ、ジェノヴァ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ミラノ、トリノ、パドヴァなど、イタリア各地の劇場で歌い、その才能を開花させていきました。ヴィヴァルディのオペラ『スカンデルベグ』初演にも参加し、当時のリブレットには「トスカーナ大公子妃ヴィオランテのヴィルトゥオーザ・ディ・カメラ」と記されるなど、その実力は高く評価されていました。

ロンドンでの活躍

1720年、ロンドンでイタリアオペラを上演するための王立音楽アカデミーが設立され、クッツォーニは1723年から参加しました。アカデミーとの契約で提示された年俸は2000ポンドと、当時としては破格の金額であり、彼女への期待の高さがうかがえます（実際には1500ポンド程度だったと推定されています）。

クッツォーニは1723年1月にヘンデルのオペラ『オットーネ』でロンドンデビューを飾り、たちまち大成功を収めます。その容姿や演技は特筆されるものではありませんでしたが、彼女の歌声は抜きん出て美しく、特に悲劇のヒロインを演じる際には、その才能が最大限に発揮されました。ヘンデルの作品以外にも、アリオスティやボノンチーニといった作曲家の作品でも人気を博しました。

私生活では、作曲家でチェンバロ奏者のピエトロ・ジュゼッペ・サンドーニと結婚しました。サンドーニは、アカデミーがクッツォーニとの契約のためにヴェネツィアに派遣した人物であり、2人はロンドン到着前に恋仲になったとされています。

ヘンデルとの確執とライバル歌手の出現

クッツォーニはヘンデルのプリマ・ドンナとして活躍しましたが、その関係は必ずしも良好ではありませんでした。デビュー作である『オットーネ』でさえ、特定の歌を歌うことを拒否し、ヘンデルが無理やり歌わせたという逸話が残っています。また、カストラート歌手のセネジーノとも不仲でした。

さらに、1726年には、2人目のプリマ・ドンナとしてファウスティーナ・ボルドーニがアカデミーに加入します。しかし、クッツォーニとボルドーニは過去に共演した際から犬猿の仲であり、観客も2人のファンに分かれて対立したため、公演はしばしば混乱に見舞われました。歌手間の争いと、高額な給与がアカデミーの経営を圧迫し、1728年にはオペラ公演の継続を断念せざるを得なくなりました。

その後の人生

クッツォーニ夫妻はロンドンを離れウィーンを訪れますが、宮廷に雇われることはありませんでした。その後、再びイタリア各地で歌い始めます。一方、ヘンデルはアカデミーを再建し、クッツォーニを再び呼び戻そうとしましたが、実現には至りませんでした。

1733年、ヘンデルのライバルである貴族オペラがクッツォーニとの契約に成功し、彼女は1734年に再びロンドンへ戻ります。貴族オペラは、ヘイマーケット国王劇場を本拠地とし、セネジーノ、ファリネッリという豪華なキャストを擁していましたが、長くは続かず1737年に解散。クッツォーニもロンドンを去りました。

その後はフィレンツェ、トリノ、ハンブルクなどで歌い、1741年には「夫を毒殺して死刑になった」という誤った報道が流れるなど、波乱に満ちた生活を送りました。晩年は声も衰え、貧困の中でボタン作りで生計を立て、ボローニャで生涯を終えました。

フランチェスカ・クッツォーニは、その美声と歌唱力で18世紀の音楽界を彩った名歌手であり、彼女のドラマティックな人生は、今もなお多くの人々の心を捉えて離しません。

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