セネジーノ

フランチェスコ・ベルナルディ（セネジーノ）

フランチェスコ・ベルナルディ（Francesco Bernardi, 1680年頃? - 1759年1月27日以前）は、セネジーノ（Senesino）の名で知られるイタリアのカストラート歌手です。彼は主にロンドンで活躍し、特にヘンデルのオペラで数多くの主役を演じたことで、その名を知られています。

生涯

セネジーノは、イタリアのシエーナで生まれました。彼の名前「セネジーノ」は、出身地であるシエーナの形容詞形「セネーゼ (senese)」に由来すると考えられています。初期にはローマ、ジェノヴァ、ヴェネツィアなどで歌い、1715年頃から次第に名声を確立していきました。

1717年、セネジーノはドレスデンのザクセン選帝侯の宮廷劇場に高給で雇われました。しかし、1720年に宮廷作曲家ハイニヒェンのオペラ『フラヴィオ・クリスポ』のリハーサル中、アリアに関してセネジーノが文句を言い、楽譜を破り捨てるという事件が発生します。この事件によりオペラは中止となり、セネジーノを含むイタリア人歌手たちは解雇される事態となりました。この事件の背景には、ヘンデルが高給でセネジーノを雇う交渉を1719年に行っており、ドレスデンとの契約を破棄するためにセネジーノが意図的に騒動を起こした可能性も指摘されています。

1720年、セネジーノはロンドンに到着し、王立音楽アカデミーが倒産する1728年まで、プリモ・ウォーモ（男性主役）として歌い続けました。ロンドンでのデビューは、ボノンチーニのオペラ『アスタルト』（1720年11月19日）で、この作品は24回も上演される大成功を収めました。セネジーノはヘンデルの17作品のオペラ（アカデミー倒産後の作品を含む）で主役を演じ、特に『ジューリオ・チェーザレ』（1724年）や『アレッサンドロ』（1726年）での成功は特筆に値します。また、アッティリオ・アリオスティのオペラなどでも歌いました。

セネジーノはオペラ歌手としては一流の才能を持っていましたが、その態度は横柄であったと伝えられています。ヘンデルやプリマ・ドンナのクッツォーニとも衝突したという逸話が残っています。

1729年、ヘンデルがハイデッガーとともにオペラの興行を再開した際、セネジーノとの間に意見の相違が生じ、セネジーノはヴェネツィアにいました。ヘンデルはセネジーノの代わりとしてアントニオ・ベルナッキを雇いましたが、ベルナッキは聴衆に不評でした。そのため、ヘンデルは1400ギニーという高額な報酬でセネジーノを再び雇い、自身のオペラやオラトリオを歌わせることになりました。セネジーノは1730年11月3日の『シピオーネ』（再演）からロンドンに復帰しました。しかし、ヘンデルとセネジーノの関係は依然として険悪であり、1733年に貴族オペラが結成されると、セネジーノを中心にヘンデルの主要な歌手のほとんどが貴族オペラに移籍しました。貴族オペラは、翌1734年にはさらにファリネッリを雇い、一時的には順調に見えましたが、最終的には1737年に倒産しました。セネジーノはそれ以前にロンドンを去っています。

その後、セネジーノはイタリアに戻り、ナポリのサン・カルロ劇場で歌いました。1739年には、フィレンツェのピッティ宮殿でマリア・テレジアと二重唱を歌っています。彼の正確な没年は明らかになっていません。

セネジーノは、その卓越した歌唱力と演技力で、18世紀のオペラ界に大きな足跡を残しました。彼の波乱万丈な生涯は、当時の音楽界の人間関係や興行事情を垣間見せてくれる貴重な資料となっています。

参考文献

クリストファー・ホグウッド 著、三澤寿喜 訳『ヘンデル』東京書籍、1991年。ISBN 4487760798。
三澤寿喜『ヘンデル』音楽之友社〈作曲家 人と作品〉、2007年。ISBN 9784276221710。
* Pironti, Alberto (1967), “BERNARDI, Francesco, detto il Senesino”, Dizionario Biografico degli Italiani, 9, https://www.treccani.it/enciclopedia/bernardi-francesco-detto-il-senesino_(Dizionario-Biografico))

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