フランチェスカ・ダ・リミニ (チャイコフスキー)

幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ』作品32

ピョートル・チャイコフスキーが作曲した管弦楽曲で、幻想曲とされていますが、実際にはダンテの『神曲』地獄篇第5歌を題材とした交響詩です。

作曲の経緯

1876年夏、チャイコフスキーは南フランスへの旅行中に、以前から関心のあった『神曲』中の「フランチェスカ・ダ・リミニ」を読み、感銘を受けました。この詩に「宿命に抗いながら真実の愛を求める」という自身の理想を見出し、交響詩の作曲を決意します。

帰国後、『スラブ行進曲』を完成させた後、10月8日に作曲に着手、11月18日に最終稿を完成させました。初演は翌年3月10日、ニコライ・ルビンシテインの指揮によってモスクワで行われ、聴衆や友人から好評を得ましたが、チャイコフスキー自身は後に「一時的なパトスで書かれたつまらない作品」と自嘲しました。

「地獄篇」第5歌

この曲の題材となった詩は、ダンテの『神曲』の中でも特に有名な箇所です。物語は、13世紀のラヴェンナを舞台に、ポレンタ家の姫フランチェスカが、政略結婚のため宿敵マラテスタ家の長男ジョヴァンニに嫁ぐことから始まります。フランチェスカは、ジョヴァンニの弟パオロと恋に落ち、密会を重ねますが、ある夜ジョヴァンニに見つかり、嫉妬に狂ったジョヴァンニによって、2人は殺害されます。色欲の罪を犯した2人は、地獄で永遠に嵐に吹き流されるという悲劇的な結末を迎えます。

楽器編成

フルート3（3番はピッコロ持ち替え）、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ（3台）、大太鼓、シンバル、タムタム、ハープ、弦五部という大規模な編成が用いられています。

演奏時間

演奏時間は通常24分から25分程度ですが、演奏者によって22分を切るものから27分に及ぶものまで、幅があります。

曲の内容

この曲は、導入部と3つの部分から構成されています。

導入部: 減七の和音を駆使した重苦しい雰囲気で、銅鑼や金管楽器が効果的に用いられ、不安定な世界観が表現されています。この部分には、後の展開に用いられる動機が次々と現れます。
第1部: 主調であるホ短調が確立され、テンポがアレグロ・ヴィーヴォへと変わります。ここでは、地獄で苦しむ罪人たちや、フランチェスカたちを待ち受ける過酷な運命が描かれています。木管楽器が特徴的なリズムを奏で、ホルンが主要主題の断片を提示します。緊張が高まり、クライマックスに達すると、シンバルやティンパニが激しく打ち鳴らされ、トランペットが主題を強奏します。
第2部: テンポがアンダンテ・カンタービレ・ノン・トロッポへと変わり、弦楽器を主体とした甘く幻想的な世界が広がります。この部分では、フランチェスカとパオロの恋が描かれていますが、ホルンの信号風の動機によって曲調は一転し、再びアレグロ・ヴィーヴォとなります。レチタティーヴォ主題が全楽器の強烈な咆哮によって打ち砕かれ、2人の恋人の破滅が描かれます。
第3部: 再びホ短調が確立され、第1部の主題が再現されます。地獄に落ちた2人が描かれ、最後はテンポを加速し、激しいリズムに乗った強烈な和音が奏でられた後、大きく膨れ上がり、ホ短調の長い和音で終わります。

この曲は、大規模な楽器編成と大胆な和声法を駆使し、地獄の情景、愛の喜び、そして破滅の悲劇を見事に表現した、聴き応えのある作品です。

参考文献

オイレンブルク版のスコア

外部リンク

『フランチェスカ・ダ・リミニ』作品32の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
https://imslp.org/wiki/Francesca_da_Rimini%2C_Op.32_(Tchaikovsky%2C_Pyotr))
Francesca da Rimini, Op.32 - 『Musopen』より
https://musopen.org/music/237-francesca-da-rimini-op-32/
Francesca da Rimini - 『Tchaikovsky Research』より
https://en.tchaikovsky-research.net/pages/Francesca_da_Rimini

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