フランツ・ゼルテ

フランツ・ゼルテ：鉄兜団とナチス政権の歯車

フランツ・ゼルテ(1882-1947)は、ドイツ帝国陸軍の将校として第一次世界大戦に従軍し、負傷によって左腕を失うも、その後、政治家として顕著な活動を行いました。彼は、戦後設立された退役軍人組織「鉄兜団」の中心人物となり、やがてヒトラー内閣の労働大臣に就任するまで上り詰めます。その生涯は、ヴァイマル共和政終焉期からナチス・ドイツの崩壊まで、ドイツの歴史における激動の時代と深く関わっています。

戦争と鉄兜団の創設

ゼルテは実業家の父を持つ裕福な家庭に生まれ、セールスマンとしての経験を経て軍隊に入隊。第一次世界大戦では勇敢に戦い、鉄十字章を受章しました。戦争末期には、プロパガンダ活動にも関与しています。敗戦後のドイツは混乱の極みにありました。そんな中、ゼルテは1918年、他の退役軍人らと共に「鉄兜団、前線兵士同盟」（通称鉄兜団）を設立します。鉄兜団の創設理念は、復員兵の社会復帰支援、愛国的精神の涵養、そして共産主義勢力への対抗でした。当初は明確な反共和主義的姿勢を示さず、むしろヴァイマル共和政を支持する様子も見せていましたが、次第に反共和主義的な色彩を強めていきます。

鉄兜団の台頭とナチスとの複雑な関係

鉄兜団は急速に勢力を拡大し、ドイツ最大の準軍事組織へと成長しました。ゼルテは鉄兜団の指導者として、保守的な退役軍人層からの支持を獲得し、反共和主義、反民主主義を標榜する組織へと変貌させていきました。この過程で、ナチス党など他の右翼勢力との連携も模索しますが、ナチスの過剰な反ユダヤ主義や社会主義的な経済政策には反発を抱き、常に距離を保っていました。しかし、1930年代に入ると、ナチス党との連携を強化し、ヤング案反対運動やハルツブルク戦線など、ヴァイマル共和政打倒を目指す運動に参加します。

ナチス政権下での労働大臣

1933年、ナチス党が政権を獲得すると、ヒトラーは鉄兜団の指導者デュスターベルクに入閣を打診しますが、デュスターベルクが拒否したため、ゼルテが労働大臣に就任することになります。ゼルテは、鉄兜団をナチス党に吸収させ、自身もナチス党に入党。鉄兜団は突撃隊に編入され、歴史の表舞台から姿を消します。労働大臣としてのゼルテは、ナチスの政策に協力しつつも、個人的にヒトラーと距離を置く姿勢を崩しませんでした。しかし、彼は「非アーリア系」医師の健康保険剥奪や公営住宅のアーリア化など、ナチスの人種政策を実行する法令にも署名しています。

戦後と評価

第二次世界大戦後、ゼルテはアメリカ軍に逮捕され、ニュルンベルク継続裁判の被告として起訴される寸前に病死しました。ゼルテの戦後における評価は分かれており、ヒトラーに抵抗できなかった無能な者と批判する声がある一方、反ナチ運動家を保護していたとする証言もあります。近年では、ゼルテ率いる労働省がナチス政権の維持に重要な役割を果たしたという見方も出てきています。彼の生涯は、個人の葛藤と歴史の流れの複雑さを示す、一つの例と言えるでしょう。鉄兜団とナチス政権との関係、そしてゼルテ自身の役割を理解するためには、当時の社会情勢、政治状況を多角的に分析する必要があります。

文献

*Manfred Wille著「Magdeburger Biographisches Lexikon」Magdeburg 2002。 ISBN 3-933046-49-1

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