フルート協奏曲 (ニールセン)

カール・ニールセン：フルート協奏曲 FS.119

作品概要

デンマークの作曲家カール・ニールセン（Carl Nielsen, 1865-1931）によるフルート協奏曲 FS.119は、1926年10月1日にその原型が完成し、翌1927年に改訂が加えられた作品です。これはニールセンにとって、15年前に手掛けたヴァイオリン協奏曲に続く二番目の協奏曲にあたります。前作と同様に二つの楽章で構成されている点が特徴ですが、このフルート協奏曲はより室内楽的な性格を強く持っています。作品番号はFS.119が付与されています。

作曲の背景

ニールセンは、当時親しく交流していたコペンハーゲン管楽五重奏団のために管楽五重奏曲を作曲し、大きな成功を収めていました。この五重奏曲での経験から着想を得て、ニールセンは同五重奏団の各奏者のために個別の協奏曲を作曲するという壮大な計画を立てます。フルート協奏曲は、この計画の中で最初に具体化された作品であり、団のフルート奏者であったホルゲル・ギルベルト＝イェスペルセン（Holger Gilbert-Jespersen, 1890-1975）に献呈されました。ニールセンは他の管楽器奏者のための協奏曲も構想していましたが、このフルート協奏曲に続き、クラリネット協奏曲のみが完成に至り、計画された全ての楽器のための協奏曲が作曲されることはありませんでした。

楽器編成

この協奏曲の楽器編成には特徴的な点が見られます。独奏フルートとオーケストラのために書かれていますが、オーケストラからはトランペット、そして独奏楽器であるフルート以外のフルートが意図的に排除されています。これにより、独奏フルートの音色が際立ち、独特の響きが生まれています。

オーケストラの編成は以下の通りです。
フルート独奏
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 2
トロンボーン 1
ティンパニ
弦五部（ヴァイオリン第一部、ヴァイオリン第二部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽章構成

全二楽章形式です。

第1楽章：アレグロ・モデラート（Allegro moderato）

穏やかな速さで始まるこの楽章は、独奏フルートが生き生きと動き回る中で展開されます。特に印象的なのは中間部で、独奏フルートがティンパニやトロンボーンといった異質な楽器と対話するかのように、あるいはそれらに抗うかのように、自由奔放に旋律を奏でる様子です。このセクションは、時にユーモラスで、時に予測不能な音楽的な駆け引きを生み出しています。

第2楽章：アレグレット（Allegretto）

この楽章は、大きく分けて二つの異なる性格を持つ部分で構成されています。まず、アレグレットのテンポで始まる最初のセクションは、弦楽器による印象的で叙情的な旋律が耳に残ります。この部分の途中には、テンポを落としたアダージョ・マ・ノン・トロッポ（Adagio ma non troppo）が挿入され、静謐な表情を見せます。続く第二のセクションは、テンポ・ディ・マルチャ（Tempo di marcia）と指定されており、「行進曲風」という意味の通り、活気のあるリズムと明快な旋律が特徴です。楽章の終結部には、トロンボーンによるユニークなグリッサンド（音高を滑らせる演奏技法）が用いられ、聴き手に強い印象を残します。

初演・出版

世界初演

世界初演は、完成直後の1926年10月21日（または20日という説もあります）にフランスのパリで行われました。独奏フルートは献呈相手でもあるホルゲル・ギルベルト＝イェスペルセンが務め、指揮はニールセンの娘婿にあたるエミール・テルマーニ（Emil Telmányi, 1892-1988）が担当しました。

日本初演

日本での初演は、1965年9月15日に東京文化会館にて実現しました。アメリカの著名なフルート奏者であるジュリアス・ベイカー（Julius Baker, 1915-2003）が独奏を務め、渡邉暁雄（1919-1990）指揮の日本フィルハーモニー交響楽団によって演奏されました。

出版

楽譜は、1952年にデンマークのダン・フォウ音楽出版社（Dan Fog Musikforlag）から出版されています。

その他

この楽曲は、フィギュアスケートの分野でも使用されたことがあります。日本の元選手である村主章枝（すぐり ふみえ）氏が、プログラム「霧が晴れていく」の一部としてこの曲を使用したことが知られています。

参考文献：作曲家別名曲解説ライブラリー18「北欧の巨匠」（1994年 音楽之友社）

楽譜情報：国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）にて楽譜が入手可能です)

もう一度検索