フレッシュ・カーロイ

カール・フレッシュ

ハンガリーのモションに生まれたカーロイ・フレッシュ（1873年10月9日 - 1944年11月14日）は、ユダヤ系ハンガリー人の傑出したヴァイオリニストであり、何よりも後世に多大な影響を与えた音楽教育者です。彼の名は英語圏ではカール・フレッシュとして広く知られ、演奏家としての活躍もさることながら、数多くの名ヴァイオリニストを世に送り出した教育者としての功績で世界的に名高い存在です。

生涯と教育

幼少期からヴァイオリンに非凡な才能を示し、6歳で演奏を始めました。10歳でウィーンに移り、高名なヤーコプ・グリュンに師事して研鑽を積みます。17歳となった1890年には音楽の都パリへ渡り、権威あるパリ音楽院に入学。当初はウジェーヌ・ソゼに学び、後にマルタン・マルシックのもとで技術と音楽性を磨きました。1894年に同音楽院での学びを終えています。

演奏家としての活躍

1895年にウィーンで正式なデビューを果たした後、カール・フレッシュはソリストとして活躍の場を広げました。バロック音楽の古典から同時代の新しい作品に至るまで、幅広いレパートリーを持ち、その多様な音楽性で聴衆を魅了しました。また、室内楽奏者としても重要な役割を果たし、チェリストのフーゴ・ベッカーやピアニストのアルトゥール・シュナーベルといった錚々たる音楽家たちとピアノ三重奏団を結成するなど、アンサンブルの世界でも高い評価を得ました。

音楽教育への貢献

演奏活動と並行して、1897年からはヴァイオリン教師としても活動を開始しました。その指導は卓越しており、世界各地の主要な音楽教育機関で教鞭を執ることになります。まず1902年までブカレスト音楽院で教え、続いて1903年から1908年までアムステルダム音楽院の教授を務めました。そして、ヴァイオリン教育における彼の活動の中心となったのはベルリンで、1903年から1926年まで教授として多くの才能を育成しました。さらに、1924年以降はアメリカのフィラデルフィアにあるカーティス音楽院でも指導を行いました。

主要な著作とその影響

教育者としての経験と深い洞察は、幾つもの重要な指導書として結実しました。中でも特筆すべきは、1923年から1928年にかけて出版された大著『ヴァイオリン演奏の技法（Die Kunst des Violin-Spiels）』です。この著作は、技術的な側面だけでなく、演奏家を単なる名人芸を持つヴィルトゥオーゾとしてではなく、より深い芸術家として捉え直すという革新的な視点を含んでおり、「ヴァイオリニストのバイブル」と俗称されるほど、後世のヴァイオリン教育に計り知れない影響を与えました。また、『音階教本（Das Skalensystem）』もヴァイオリン学習者にとって欠かせない基礎練習の資料として、現在に至るまで広く活用されています。アルバン・ベルクがヴァイオリン協奏曲を作曲した際には、難解な技巧に関する助言を彼に求めたことからも、当時の音楽界における彼の権威が伺えます。

著名な門下生

カール・フレッシュのもとからは、音楽史に名を刻む多くのヴァイオリニストたちが巣立ちました。その門下生には、ヨーゼフ・ハシッド、イダ・ヘンデル、ジネット・ヌヴー、ヘンリク・シェリング、イフラ・ニーマン、イヴリー・ギトリス、エリック・ローゼンブリス、マックス・ロスタル、リカルド・オドノポソフ、シモン・ゴールドバーグ、ティボール・ヴァルガ、ノルベルト・ブライニン、シュテファン・フレンケルといった、まさに綺羅星のような顔ぶれが揃っており、それぞれが世界的な演奏家や優れた教育者として活躍しました。

晩年

ドイツのバーデン＝バーデンに居を構えていましたが、1934年にナチス政権下のドイツを離れ、ロンドンへ移りました。その後、アムステルダムを経て、最晩年はスイスのルツェルンで過ごし、1944年11月14日にその生涯を終えました。

また、かつてストラディヴァリウスの名器「ブランカッチョ」を所有していましたが、1928年のニューヨーク証券取引所への投資失敗により財産を失い、この貴重な楽器を手放さざるを得なくなったという逸話が残っています。彼の深い音楽観を示すものとして、「ある音楽家の教養の程度は、彼のモーツァルトに対する関係で分かる。相当の歳にならねばモーツァルトを理解することができない…」という言葉もよく知られています。

カール・フレッシュは、演奏家としても教育者としてもヴァイオリン界に偉大な足跡を残し、その教育理念と著作は今なお多くのヴァイオリニストに影響を与え続けています。

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