フレデリック・コンヴァース

フレデリック・シェパード・コンヴァース

はじめに

フレデリック・シェパード・コンヴァース（Frederick Shepherd Converse, 1871年1月5日 - 1940年6月8日）は、19世紀末から20世紀前半にかけて活動したアメリカ合衆国の作曲家および音楽教師です。賛美歌として広く知られる《慈しみ深き友なるイエスは》や、その旋律を用いた文部省唱歌《星の世界》の作曲者であるチャールズ・コンヴァースとは別人であり、混同されることがありますが、フレデリックはクラシック音楽の分野で重要な足跡を残しました。

生い立ちと教育

コンヴァースは1871年、マサチューセッツ州ニュートンに生を受けました。幼少期から音楽に強い関心を示し、やがてハーヴァード大学へ進学します。大学では音楽理論などをジョン・ノウルズ・ペインに師事し、音楽学の分野で優れた才能を発揮しました。1893年には最優等の成績を修めてハーヴァード大学を卒業しています。この間、ボストンでは著名な作曲家ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックからも作曲の指導を受け、その力量を認められました。チャドウィックの推薦を受け、コンヴァースはさらなる研鑽を積むべくヨーロッパへと渡ります。ドイツのミュンヘン音楽院でヨーゼフ・ラインベルガーのもとで学び、作曲技法や対位法などの専門的な知識を深めました。1898年にアメリカへ帰国します。

作曲家としての活動

帰国後、コンヴァースは作曲家として精力的に活動を開始します。特に、彼がアメリカ音楽史において特筆されるのは、オペラ分野での功績です。1905年、彼のオペラ作品がニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されました。これは、アメリカ人作曲家の作品が同歌劇場で上演された最初の例であり、当時のアメリカ音楽界にとって画期的な出来事でした。この成功を皮切りに、彼はオペラ創作に積極的に取り組み、《欲望のパイプ》（1910年）、《生け贄》（1911年）、《船乗りシンバッド》など、数々のオペラを生み出し、上演されました。

音楽教師としての貢献

作曲活動と並行して、コンヴァースは音楽教育にも情熱を注ぎました。かつて師事したジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィックが院長を務めるニューイングランド音楽院に教授として招かれ、長年にわたり教鞭を執りました。1938年に健康上の理由から音楽院を退くまで、彼は多くの若い音楽家たちを指導し、後進の育成に貢献しました。彼の教えを受けた著名な門人の中には、アフリカ系アメリカ人女性として初めて交響曲を作曲・上演したフローレンス・プライスや、独自の神秘的な作風で知られるアラン・ホヴァネス、そして戦前の日本で活躍した作曲家・大澤壽人などがいます。

主要作品と音楽性

フレデリック・コンヴァースは、アメリカ、特にニューイングランド出身の作曲家として、標題音楽の分野で初めて大きな成功を収めた人物として記憶されています。彼の音楽は、リヒャルト・シュトラウスなどの同時代のヨーロッパ後期ロマン派の音楽から強い影響を受けていますが、作品の着想源はしばしばアメリカの風土や人々の生活感情に根ざしています。初期の重要な作品である交響詩《神秘のらっぱ吹き》（1904年）は、アメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの詩集『草の葉』にインスパイアされて作曲されました。

彼の作品で特に知られるものの一つに、交響詩《大衆車1000万台（Flivver Ten Million）》があります。この作品は1927年に、フォード・モーター社のT型フォードが累計生産1000万台を達成したことを記念して書かれました。同時期には、アルテュール・オネゲルが鉄道機関車を題材とした《パシフィック231》を、アレクサンドル・モソロフが工場の機械音を描写した《鉄工場》を作曲しており、これらはいずれも当時の技術革新や産業機械への関心を反映した描写音楽と見なされています。そのため、コンヴァースの《大衆車1000万台》もしばしばモータリゼーションを賛美する描写音楽として捉えられがちです。しかし、オネゲルやモソロフが機械そのものの力強さや騒音を写実的に表現したのに対し、コンヴァースの描く世界はより叙事的かつ叙情的であるという違いがあります。この交響詩は、単に自動車の生産台数を祝うだけでなく、当時のアメリカ社会においてT型フォードのような大衆車が象徴していた、広大な国土における移動の自由、経済的な豊かさ、そして大衆社会や民主主義そのものといった、より深い文化的・社会的な意味合いをも描出しようとした作品として解釈されるべきでしょう。

晩年

フレデリック・シェパード・コンヴァースは、1940年6月8日、マサチューセッツ州ウェストウッドにてその生涯を終えました。彼の功績は、アメリカ音楽がヨーロッパの影響から脱却し、独自の主題や表現を模索し始めた時期における重要な一歩として、今日でも評価されています。教育者としても多くの才能を育て、アメリカ音楽の発展に寄与しました。

もう一度検索