ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィック

アメリカ合衆国の作曲家、ジョージ・ホワイトフィールド・チャドウィック（1854年 11月13日 - 1931年 4月4日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカ音楽界において、極めて重要な位置を占めた人物です。チャールズ・アイヴズが登場する以前の世代では、ホレイショ・パーカーやエドワード・マクダウェルと並び、アメリカを代表する作曲家の一人として広く認識されていました。

経歴

チャドウィックの少年時代は、父親が学問への理解を示さなかったため、ハイスクールを中退せざるを得ない状況でした。この経験は、彼の自立心を強く育むことになったと言われています。父親との関係がこじれた後、彼は多くの同世代のアメリカ人音楽家と同様に、専門的な音楽教育を求めてヨーロッパへと渡ります。ドイツのライプツィヒ音楽院ではザーロモン・ヤーダスゾーンとカール・ライネッケに、その後バイエルンのミュンヘン音楽学校ではヨーゼフ・ラインベルガーに作曲を師事し、高度な技術を習得しました。帰国前には、フランスへと足を延ばし、パリ音楽院でセザール・フランクに学ぶことを試みましたが、この望みは叶いませんでした。

アメリカ帰国後、チャドウィックはすぐに華々しい成功を収めたわけではありません。当初は個人教師や教会オルガニストといった副業を兼ねながら、地道に作曲活動や指揮活動を続けました。しかし、その才能と努力が実を結び、徐々に作曲家、指揮者としての名声を確立していきます。1897年には、アメリカ有数の音楽教育機関であるニューイングランド音楽院の院長に迎えられました。教育者としては、単に音楽理論を抽象的に教えるのではなく、作曲や演奏の実践に役立つよう、実用的な視点から指導を行うことを得意としていました。彼の下からは、高弟であるホレイショ・パーカーをはじめ、多くの才能ある音楽家が育ちました。チャールズ・アイヴズは、パーカーの弟子にあたるため、チャドウィックはアイヴズの「孫弟子」を育てたことになります。神経質な性格で知られたパーカーとは対照的に、チャドウィック自身は、ざっくばらんな話し方、飾らない自然な人柄、そして辛口でありながらもユーモアに満ちた発言で周囲から親しまれていたと言われています。

作曲作品

チャドウィックは、19世紀末のアメリカ人作曲家の中でも、特に豊かな想像力を持っていた一人と評されています。ドイツで師事したヤーダスゾーンやラインベルガーから叩き込まれた高度な作曲技法は、彼が同時代のヨーロッパ音楽界の最先端の動向にも通じることを可能にしました。その結果、彼はメンデルスゾーンやブラームスのような擬古典的なスタイルから、新ドイツ楽派に見られるようなより華やかで色彩豊かな表現まで、幅広い作曲様式を自在に操ることができました。チャドウィックの卓越した才能と技術力は、特に管弦楽曲において遺憾なく発揮されています。

一方で、チャドウィックは「アメリカ国民楽派」の重要な提唱者であり、その可能性を自らの作品で探求しただけでなく、門下生にもその道を推奨しました。様式的には、ドイツで学んだドイツ・オーストリアの作曲家たちの影響を受けつつも、それだけにとどまらず、アメリカ国内やカリブ海の民族音楽の要素を積極的に自身の音楽に取り入れました。彼の作風は、帰国後のマクダウェルや、親交のあったエイミー・ビーチといった他のアメリカ人作曲家にも影響を与えています。例えば、《交響曲第2番変ロ長調》においては、アントニン・ドヴォルザークがアメリカの作曲家たちに自国の素材を用いることを推奨する以前から、既にアメリカの民俗的な旋律などが活用されており、後のドヴォルザークの《「新世界」交響曲》にも影響を与えた可能性が指摘されています。

チャドウィックの作品は多岐にわたります。オペラとしては「タバスコ」などが知られるほか、3つの交響曲、シンフォニエッタ、弦楽セレナーデ、5つの弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲などの主要なジャンルの作品を残しました。また、「死の天使」「アフロディーテ」「タモシャンター」といった標題音楽的な交響詩や、「リップ・ヴァン・ウィンクル」「エウテルペー」「タレイア」「メルペメネー」といった演奏会用序曲も数多く作曲しています。その他にも、機会音楽、歌曲、合唱曲など幅広い分野で活躍しました。

ホレイショ・パーカー以外にも、ヘンリー・ハドリー、フレデリック・コンヴァース、ダニエル・グレゴリー・メイソン、ウィリアム・グラント・スティル、フローレンス・プライスなど、多くの優れた音楽家がチャドウィックに師事しました。彼らの作品は、近年改めて評価が進められています。

チャドウィックは、アメリカ音楽の土壌を豊かにし、後進の育成にも尽力した、まさにアメリカ音楽史における巨人と言えるでしょう。

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