フレンスブルク政府

フレンスブルク政府：ドイツ敗戦と終焉の舞台裏

1945年4月、第二次世界大戦末期のドイツ。ベルリン陥落により、ヒトラー政権は崩壊寸前でした。ヒトラーの死後、海軍元帥カール・デーニッツを大統領とする暫定政府が、シュレースヴィヒ＝ホルシュタイン州のフレンスブルクに樹立されます。これが、通称「フレンスブルク政府」です。しかし、この政府は連合国、そして同盟国である日本からも承認されず、その存在は極めて限定的なものでした。

ヒトラー死後の混乱と政府樹立

ベルリン陥落の危機の中、ヒトラーは残存閣僚の避難を許可。全権を委任されたデーニッツは、キール近郊に拠点を移し、北ドイツでの難民輸送や補給作業を指揮しました。一方、ヒムラーは連合国との極秘停戦交渉を図りましたが失敗、ヒトラーの怒りを買い解任命令を受けます。

4月30日、ヒトラーは自殺。その死はすぐに外部に伝わらず、混乱は続きました。デーニッツは、ヒトラーの遺言で大統領に指名されたと認識しますが、遺言の内容は断片的にしか伝わっていませんでした。この時点では、首相にはゲッベルス、ナチ党担当相にはボルマンが指名されていると伝えられていました。しかし、デーニッツは、なるべく多くの国民を救出し、早期に戦争を終結させるために、独自の判断で閣僚を選任。ゲッベルスやボルマンの就任は無視しました。

5月1日、デーニッツはヒトラーの死と自身の後継者就任を国民に発表。しかし、その権力はシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン州に限られ、ドイツ全土への影響力は限定的なものでした。

フレンスブルク政府の活動と降伏交渉

フレンスブルク政府は、連合国との降伏交渉を主な業務としました。デーニッツは、西側連合国への降伏は受け入れるものの、ソ連軍による虐殺の現実を踏まえ、東部戦線では戦闘継続を検討。西方への残存兵移動を指示します。

5月7日、ランスで対米英仏連合軍への降伏文書が調印。5月8日午後11時1分が停戦発効時間と定められました。しかし、連合軍の要求により、ベルリンでも降伏文書の調印式が行われました。この文書には政府代表の署名がなく、国防軍の軍人だけが署名しました。

解散と歴史的意義

降伏後、フレンスブルク政府の存続は危うくなりました。連合国は政府解体を決意。5月23日、イギリス軍の連絡将校がデーニッツの本部に赴き、政府解散と全要員の逮捕を宣告。フレンスブルク政府は解体され、6月5日のベルリン宣言により、ドイツの中央政府は消滅しました。

フレンスブルク政府は、短命に終わった暫定政府でしたが、ドイツ敗戦と終焉を象徴する存在であり、第二次世界大戦史において重要な位置を占めています。その成立から崩壊までの経緯、そしてデーニッツの苦悩は、戦争の悲劇と終結の複雑さを改めて私たちに突きつけます。また、ポツダム宣言で中央政府が存在し続けた日本との対比も重要な点です。 フレンスブルク政府の短命な歴史は、国家崩壊と降伏のプロセス、そして戦後処理の複雑さを示す貴重な事例となっています。その限定された権力と、連合国による迅速な解体も、この政府の特異性を際立たせています。

参考文献

W.フランク著 松谷健二訳『デーニッツと灰色狼』（フジ出版社）
アルベルト・シュペーア著 品田豊治訳『第三帝国の神殿にて -ナチス軍需相の証言』下（中央公論新社、2001年）
井上茂子「ドイツ降伏の日はいつか? : 第二次世界大戦終結をめぐる神話と伝説(月例会発表要旨新入生歓迎記念講演)」（PDF）『上智史學』第51号、上智大学、2006年、pp. 241-242、NAID 110006426456。
児島襄『第二次世界大戦　ヒトラーの戦い 10巻』文藝春秋社〈文春文庫〉、1993年
* フォルカー・ウルリヒ著 著、松永美穂 訳『ナチ・ドイツ最後の8日間 1945.5.1-1945.5.8』すばる舎、2022年。

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